北朝鮮の強制収容所の「家族」を描く衝撃アニメ映画 10年越しの制作秘話

清水ハン栄治監督

分断された「国家」のヒューマニティーを描く、衝撃作と言ってもいいかもしれない。

世界最大のアニメーション映画祭「アヌシー国際アニメーション映画祭」で、北朝鮮を題材にした異色の新作アニメ映画『TRUE NORTH』が、長編コントルシャン部門にノミネートされた。手がけたのは、横浜生まれで朝鮮半島にルーツのある清水ハン栄治監督だ。

アヌシー国際アニメーション映画祭は、カンヌ映画祭から1960年に独立し、過去には宮崎駿監督や高畑勲監督が最高賞に選ばれ、近年では『この世界の片隅に』(2017年)の片渕須直監督が審査員賞を受賞するなど、世界的に最も権威あるアニメ映画祭だ。今年は新型コロナウイルスの影響もあり、オンラインで開催され、フランス現地時間で6月30日まで出品作品が15ユーロで視聴できる。

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『TRUE NORTH』は北朝鮮の強制収容所を舞台に、少年が家族とともに生き抜き、成長していくヒューマンストーリー。とはいえ、独裁国家で先軍政治という特殊な環境下だ。主人公の少年ヨハンの父親は「在日コリアンとして日本にルーツがある」ということもあり、反体制的と見なされ、家族と引き離され、行方はわからない。

なお、北朝鮮では国家最高指導者への不忠誠行為など、政治犯が最も重い罪とされる。そして孫子三世代まで家族が政治犯の収容所に入れられるという連帯責任制から、1995年、ヨハンは母と幼い妹とともに強制収容所に連行されてしまう。



時は、1世代前の金正日体制下だ。北朝鮮では飢饉が発生し、1995年には夏の大水害でさらに深刻化し、「苦難の行軍」というスローガンのもと苦行を強いられていた。北朝鮮における一般の人たちの飢餓や貧困や政治犯強制収容所の存在については、これまで人権保護団体などからも幾度となく指摘されてきた。本作には、北朝鮮国民だけでなく、ヨハン一家のような元在日コリアンや、拉致被害者という女性も出てきて日本も無関係の話ではない。これらのストーリー構成は、脱北者の証言を基にフィクションとして練り上げたものだ。

『TRUE NORTH』完成までに10年 構想のきっかけ 


構想から10年。『TRUE NORTH』完成までに、前途多難な道を辿ってきた。

そもそもなぜ、このようなアニメ映画を制作しようと思ったのか。ひとくちには表せられない複雑な背景がありそうだが、まず清水監督にそんなことから尋ねることにした。

清水は1970年横浜生まれで、母は在日コリアン3世、1世の父は2年半前に亡くなった。大学院卒業後は外資系IT大手やリクルートなどを経て、35歳で独立した。

リクルート時代はメディアの新規事業開発などを担当し、「先頭で槍を持って突っ込んでいく特攻隊長みたいなタイプ」で新しい課題があると自分のところに仕事が回ってきた。クリエイティブな仕事にも関心が強く、独立するとマハトマ・ガンジーやマザー・テレサなどのの偉人伝記マンガシリーズを海外で出版する事業を通じて、チベット自治問題やパレスチナ難民問題などを取り上げた。また、アメリカの友人であるロコ・ベリッチ監督から誘われて「幸せとは何かを」を探究するドキュメンタリー映画『HAPPY ーしあわせを探すあなたへ』(2011年)のプロデューサーを務めるなど、奔走してきた。

そんな中、10年ほど前「次は何をしようか」と考えている最中、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの代表と話をすることになった。
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文=督あかり 写真=Christian Tartarello

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