経済・社会

2020.06.18 17:00

それは正義か。コロナ禍で再びあえぐ日本の「貧困」の現実

新宿・都庁前で緊急相談会を開く、もやい代表理事の大西蓮さん(左)


もやい緊急相談会
生活困窮者支援に関連する資料

大西さんが評価するコロナ禍の支援策もある。例えば、生活保護を利用するための制度要件が緩和された点だ。職員による自宅訪問がなくなったり、3時間の面談を郵送に切り替えたり、申請者の負担が減り、スピーディに行えるようになった。
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社会福祉協議会による貸付は、3月25日から約2カ月で20万件もの申請があった。東日本大震災があった2011年の1年間で7万件だったのに比べて急増した。

緊急事態宣言が解除され、経済活動は再び動き始めたが、これから景気がどうなるかはわからない。仮に景気が回復して貧困が見えにくくなったとしても「月収15万円でギリギリの生活をしている人が増えるだけだ」と大西さんは指摘する。

「リーマンショック後、就労支援や貧困対策の制度などがいろいろできました。それが今回、成果をあげられなかったことが分かったんですよね。それらの制度の多くは、貧困状態の人たちに労働市場へと入ってもらうためのものですが、彼らは正社員になった訳ではありません。非正規雇用で月収15万円、外見上は自立していただけなんです」
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そんな人たちが、コロナ禍で再び貧困状態に陥ったのだ。大西さんは、これまでの貧困対策は好景気を前提にした支援モデルだったという。そのため景気が悪くなると脆く崩れてしまったのだ。

問題は肥大化する懸念がある。日雇いで働いている人にとって「失業=貧困」だが、月給の場合は4月分の給料は通常5月に入る。また多少の貯金や給付金などがあれば、貧困に陥るまでにタイムラグが発生し、これから生活が立ち行かなくなる人が現れるだろう。

大西連さん
大西連さん (photo by Natsuki Yasuda)

大西さんは、コロナ危機は社会のあり方や貧困問題を考え直すきっかけになると捉える。

「貧困対策とは、生活保護よりは上の収入を稼げさえすればいいのか、それが本当にゴールでいいのだろうか。ギリギリの生活をしている人が社会のなかにたくさんいるなかで、私たちの社会の脆弱さが浮き彫りになった。困ったときに困ったと当たり前に言えるようになったり、必要な支援を当然のように迅速に利用できたりといった、社会の前提をつくり直す必要があるのではないか」

冒頭の都庁の対応については「ルールや規則はとても重要です。東京都の職員はあくまでルールに従っただけ、と言うこともできるでしょう。しかし、もし自分がその日に食料品の配布に並ぶホームレス状態の人だったらどうでしょう。そのルールに従うのであれば、大雨の中、濡れながら食料品の配布を待つことになります」と語る。

「一方で、ルールを変えるには手続きやプロセスが必要で、時間がかかることもあります。例えば、10万円の定額給付金が手元に届くのに時間がかかるのは二重支給を防ぐためでもあると言われています。二重支給を防ぐことは『正義』ですが、『正義』を優先する結果、必要な人が必要な時に届かない、ということが起きます。私たちの社会は何を優先するべきなのかいま一度考える必要があります」

たとえ貧困が身近でなくても、日本の現実に目を向けてみると、どんな社会が見えてくるだろうか。あらゆる人たちが分け隔てなく暮らせるようにするにはどうしたら良いのか。インクルーシブ社会を建前にせず、どう実現していくかを考えたい。

文=村山幸

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