かつては、屋外で放し飼いされた家畜が主な感染ルートだと考えられてきた。しかし、米ジョンズホプキンズ大学が行なった調査では、屋外での平飼い方式よりも、ファクトリー・ファーミングの方が感染症発生のリスクが4倍以上高くなった。
平飼いの方が感染リスクが低いのは、屋外で紫外線に当たることで一定のウイルスが死滅するからではないか、と狂牛病に精通するマイケル・グレガー医学博士は推測する。
さらに恐ろしいのは、ファクトリー・ファーミングは、ウイルスを強毒化する培養器であるということだ。英ロンドン大学や米ジョンズホプキンズ大学などの共同研究によると、遺伝的に同一の動物が大量に密集した環境下では、ウイルスが適応進化しやすく突然変異が起こりやすいという。つまり、飼育場内で高い感染力や高い致死性が培養されていく可能性があるということだ。
このような状況から、国連環境計画(UNEP)や国際連合食糧農業機関(FAO)は、ファクトリー・ファーミングは地球規模で人類に健康リスクをもたらす可能性があると警鐘を鳴らしてきた。
ファクトリー・ファーミングが社会にもたらす代償
今日、動物性タンパク質の世界需要はかつてないほどに大きくなっている。今後、世界人口の増加や、途上国や新興国などの所得増加に伴って、その需要はますます増えると考えられている。
2050年までに2007年時の倍近くまで動物性商品の世界需要が増加すると考えられている。出典: Alexandratos, N. and Bruinsma, J. 2012.
しかし、この世界需要を満たす手段としてこのまま近代畜産を押し広めていくのは、人類全体にとって得策ではない。「家畜の数の増加は、人獣共通感染症の出現と関連している」と、英シェフィールド大学教授で微生物学者のデイヴ・ケリー氏は指摘する。
経済合理性を優先したファクトリー・ファーミングが人類にもたらしたのは健康リスクだけではない。近代畜産は、地球温暖化、生物多様性の損失、資源枯渇、環境汚染といった緊急課題の主要原因の一つであることが世界の研究から明らかになっている。