緊急事態宣言が解除された後も、ライブエンタメを復活させていく道のりは険しい。そこでオンラインが秘める可能性とは? 有料配信でエンタメの新たな可能性を広げた「劇団ノーミーツ」主宰の一人である広屋佑規さんに、IT批評家・尾原和啓がインタビュー。ニューノーマル時代のリモートとライブエンタメの未来を探る。
“有料化”でのZOOM演劇にチャレンジ
尾原:そもそも「劇団ノーミーツ」はどのようなきっかけで始められたんですか。
広屋:劇団の主宰は、ライブエンタメ業界の私を含め、映像業界の林健太郎(監督・プロデュース)と演劇業界の小御門優一郎(脚本・演出)の3人です。今回のコロナで仕事がほとんど中止・延期になり、自宅でできるエンタメはないか模索しながら、同じく仕事をなくした役者やクリエーターたちとつながり、旗揚げしました。最初の作品を発表したのは、緊急事態宣言が発令された数日後の4月9日でした。
その後、無料の短編作品を中心に配信していました。今の日常をできるだけリアルに描き、そのなかで笑いや怖さやエモさを表現できたらいいと思って15作品ほど作りました。今ではSNS上での総再生回数は3000万回を超え、多くの方に楽しんでいただいています。
劇団ノーミーツ 短編作品「ダルい上司の打ち合わせ回避する方法考えた。」
尾原:オンラインだとどうしても無料エンタメにユーザーが集まりがちです。そんななか、有料で演劇を行い、かつ観客を集めたことは、演劇の可能性をかなり広げたんじゃないかと思います。
広屋:短編もたくさん見られていましたが、コロナがいつ収束するかわからないなかで、オンラインだけで活動を継続できる仕組みづくりをするためにも、きちんと質のいい作品をつくり、有料化にチャレンジしていく必要性を感じていました。
長編作品の『門外不出モラトリアム』では、日常を描いた短編よりさらに想像力を膨らませて、「もしこの生活があと4年続いたら?」という問いをもとに、直接会うことの価値やコミュニケーションの質、それに応じて思い出の価値がどう変化するのかなどを探りながら作りました。
劇団と観客がシンクロしていく
広屋:実は、「劇団ノーミーツ」のメンバーは、まだ一度もリアルで会ったことがないんです。すべての作品の企画や稽古を、文字通り“ノーミーツ”で行いました。つまり、「直接会えない状況」を当事者として強く噛み締めた上で、作品を作ってきたんです。
そこで自分たちが直面したのは、「一度もリアルで会っていないのに劇作品を作ることができる」という事実です。同時に「これはどういうことなんだろう?」という思いをずっと抱えていて。この問いや思いが『門外不出モラトリアム』には詰まっています。