10Xは2017年に創業。同年12月には献立が10秒で決まるアプリ「タベリー」をリリースした。その後2019年に「オンライン注文機能」を実装し、タベリーを使って食品流通市場のDXへ乗り出すように思われていた。
ところが、そんな10Xが発表したのは、開発不要でネットスーパーを立ち上げられるサービス「Stailer」。これは、小売・流通事業者を対象に、既存の商品データと連携するだけで、ネットスーパーを展開できるというもの。レガシーなシステムを置き換え、長期的にネットスーパーを成長させるために必要なAPIやデータベース、分析ツールといったシステムもフルセットで提供する。すでに大手ネットスーパーの参入が決まっているほか、DCM Ventures、ANRI、個人投資家らから総額3億円の資金調達も実施した。
その名のとおり「非連続な成長(10x)」を目指す彼らが、タベリーではなく「Stailer」という新たな選択肢に至った理由は何か? 10X代表の矢本真丈に話を聞くと、そこにあったのは10xを目指すゆえの、数々の試行錯誤だった。
開発が進むごとに深まる「ネットスーパーの難しさ」
10Xが食品流通市場へ踏み込む一歩となったタベリーは、育休中だった矢本の「スーパーへ行き、売っているものから献立を考えることが思っていたより大変だった」という体験が開発のきっかけになっている。そこから、AIが献立をサジェストし、必要な食材がわかるアプリとして「タベリー」が誕生した。
「創業当時から、ネットスーパーへつなげたい構想はありました。そのため、わりと早い段階から大手スーパーとの商談も進めていたんです。しかし、僕らのようなスタートアップがいきなり『APIを提供してほしい』と言っても、彼らの中にそういったシステムは存在せず、商談を前にすすめることが難しい状況でした」(矢本)
難しいと分かるや否や、矢本はすぐに別の行動を始める。大手スーパーによるAPI提供が難しいのであれば、自分たちで実現しようとしたのだ。
それが、タベリーのオンライン注文機能だった。この機能では、献立リストとネットスーパーの商品データを紐付け、買い物リストに必要な食材を表示。ショッピングカートに入れ、決済まで進める。まさに、外部からAPIを作り上げたことになる。
「偶然、社内のエンジニアがヒントになるアイデアを持っていたんです。そして、タベリーで商品を指定すると、大手ネットスーパーのカートにも自動的に同じ商品を購入できる仕組みのプロトタイプを、3日ほどで実装してくれました」(矢本)