ビジネス

2020.06.15

自社での失敗を経て、協業の道へ。開発不要でネットスーパーができるサービスの開発秘話


“10x”の原点に立ち返り、誕生したStailer


これで幕切れのように思われるが、そうではない。実は、API提供を断られたあとも、イトーヨーカドーとのやりとりは水面下で動き続けていた。関係性が大きく変わったのは、タベリーのオンライン注文機能をリリースする1〜2週間前。彼らの前で機能の詳細を語ったときだった。

「ひと通り話し終えたあとに言われたのが『なぜ我々がつくりたかったものをあなたたちが?』でした。彼らも、ネットスーパーには大きな変革が必要だと認識していたんです。でも、ソフトウェア開発ができず、将来的な構想を形にする方法がわからず動き出せていなかった。そのせいか、当時の話し合いでは、セキュリティに関する質問や意見なども活発に行き交っていました。



サービス作りで大切なのは、ユーザーの課題を解決できるかどうか。イトーヨーカドーにはすでにバーニングニーズと呼ばれる“それしか考えられない”ほどの課題がありました。それ以降、話し合いを重ねるたびに、お互いが課題に対して真摯に取り組めるチームになるような感覚が生まれていきました」(矢本)

同時に、矢本も原点に立ち返る。オンライン注文機能やタベクルなど次々に立ち上げたが、“10x”を目指すうえで、今やるべきことは何か──。

「オンライン注文機能やタベクルをやってみてわかったのは、僕らだけでは食品そのものや配送や人員などのアセットを、巨大なスケールで用意するのは難しいということ。ですが、既存事業者のアセットを借り、そこへ我々の強みであるソフトウェアマネジメントの力を載せることでネットスーパーをさらに良くすることはできる。2つを結びつけるようにして、Stailerを作ることを決めました」(矢本)



タベリーのオンライン注文機能をベースに、約半年かけてStailerを開発。開発コストやリスクはすべて10Xが持ち、ディベロッパーライセンスも「10X inc.」とした。これは、大手スーパーがライセンスを持つと、社内稟議などに時間がかかり、クイックに改善できない問題を回避するためでもある。

「これは、イトーヨーカドーとの交渉で受け入れて頂いた条件の1つです。これまでなら、却下されていたかもしれません。それでもOKとするくらい、彼らも本気でネットスーパーを変えたいと思っているし、10Xが示してきた未来や、専門性へのリスペクトも感じました」(矢本)
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文=福岡夏樹

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