では、現在、新型コロナウイルスに関する世界のトピックは、どうなっているのだろう。私は「唾液」だと思う。
6月4日現在、アメリカ国立医学図書館データベース(PUBMED)を用いて「COVID-19」(新型コロナウイルス)という単語を含む論文を検索すると、1万8702報の論文がヒットする。また感染対策に関する論文は、流行当初から多数の論文が発表されていて、「aerosol(エアロゾル)」「droplet(飛沫)」「mask(マスク)」という単語を含む論文数は、それぞれ368、238、355報も発表されている。
注目すべきは「saliva(唾液)」という単語を含む論文数が、4月以降急増していることだ。これまでに66報が発表されている。これは、新型コロナウイルスに対する見方が変わったことを反映している。
コロナウイルス属は風邪ウイルスだ。鼻腔や咽頭で増殖する。新型コロナウイルスも当初はそう思われていた。
ところが、多くの臨床研究により、その見方が変わってきた。当初の予想とは違った。新型コロナウイルスは、口腔から大腸まで広範な臓器に存在するのだ。
4月22日、アメリカのラトガース大学の研究者は、唾液を用いたPCR検査のほうが鼻腔より感度が高いと報告した。この発表に先立つ4月13日には、アメリカ食品医薬品局(FDA)が、唾液検体を用いたPCR検査に緊急使用許可を出している。
日本でも豊嶋崇徳・北海道大学教授らが同様の追試結果を5月13日に発表し、6月2日には厚労省も唾液検体を用いたPCR検査を承認し、保険適用している。アメリカから50日遅れの承認である。
「会話」で感染拡大
新型コロナウイルスが流行しはじめた当初、唾液に多数のウイルスが存在するなど、誰も想像しなかった。流行が拡大し、一部の感染者が臭覚や味覚の異常を訴え、3月末に欧米の耳鼻科関係の学会が、新型コロナウイルスの検査に臭覚や味覚異常を含めることを提案したときには、誰もが不思議に思った。しかし唾液に大量の新型コロナウイルスが存在するのなら納得がいく。
季節性インフルエンザは、鼻腔や咽頭で増殖した病原体が、咳やくしゃみをすることで周囲に拡散する。もし、唾液に大量のウイルスが存在すれば、会話の際の唾によって周囲に拡散される。咳やくしゃみと会話では感染拡大の危険度はまったく違う。