一人っ子政策後、養育の考え方が一変
その理由には、1979年から2015年まで導入された人口政策「一人っ子政策」の影響が大きい。人々の子供の養育に対する考え方が変わり、子供は家庭で手厚く育てたいと考える両親が増えた。
それ以前の中国では、各家庭の子供が多く、母親は産後すぐ就労しなければならなかったため、国営の寄宿制保育所やゼロ歳児の保育所を利用していたが、一人っ子政策以降はこれらの施設の利用が激減したという。
地方に住む両親に都会に出てきてもらい、自宅で子供をみてもらうこともよくある。日系企業の営業部に勤めている黄麗さんが、第一子の男子を出産した時、浙江省の実家から母親だけに来てもらい、上海の黄さんの自宅で育ててもらったそうだ。実家には父親が1人残されたが、黄さんは「中国では共稼ぎが多いので家事も夫婦で分担する。父は家事が得意なので困らない。また、近くには親戚も住んでいるし全然問題ない」と話していた。日本の「母親に育児を任せっきり」の事情とは異なるようだ。
長年の一人っ子政策による中国社会への影響は大きい (Getty Images)
ところで、張さんの子供が2歳になった時、実家から子供を引き取り、上海の自宅で育てるようになった。日中は夫婦ともに仕事があるので、子供を「幼儿园」(幼稚園)の年少組に預け、朝夕の送り迎えはサラリーマンの夫よりも自分の方が時間的に融通が利くと考えて、張さんが主にしていた。
現在、中国には3歳未満の子供を保育する施設として衛生部門(厚生労働省に相当)が管轄する「託児所」がある。市場経済導入後は人々の所得が急増し、子供の教育にお金をかけるようになった。公立幼稚園が減少し、保護者の保育ニーズに対応し、充実した施設や、豊富な教育プログラムをもつ私立幼稚園が増加した。そこで、最近では1歳半から3歳未満の子供は幼稚園に併設された年少組「小小班」に預けられることが多くなったという。
定年が早い中国シニア
中国では、共働きの両親に代わって、祖父母の子育て参加も欠かせないものになっている。
中国のシニア事情について簡単に説明すると、中国の「法定定年退職年齢」は男性が60歳、女性が50歳(女性幹部は55歳)で、女性は日本に比べると10年早い。また日本では定年退職後から年金開始までブランクがあるが、中国の場合は定年退職と同時に養老年金の支給が始まる。
実際、筆者が上海滞在中に住んでいた長寧区(上海中心部)の小区(中国人が住む団地)では、団地の周りを孫と手をつないで散歩したり、近くのスーパーに一緒に買い物に行ったりする姿をよく目にしたものだ。
一方、日本では核家族化が進み、実家の両親や義父母に子供を預けることをためらう人が多い。中国では育休がないとはいえ、働く女性事情や祖父母の子育てぶりに、驚きを覚える人も多いのではないだろうか──
連載:中国のライフスタイルと働き方の新常識
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