ないものではなく、あるものを数えなさい──曽野綾子流「危機」との向き合いかた

Yusuke Nishizawa / Getty Images


失明するかもしれない危機に


曽野さんは、こんな話もしていました。

「かつて日本人は、爪に灯をともすようにしてお金を蓄えていた。しかし、豊かになるにつれて、そんな風潮はなくなってしまった。それでどうやって万が一を生き抜くのか」

備えができていないから、他者に期待するしかなくなる。自分以外のことにばかり、文句を言うことになる。国、政治、社会、会社……誰かがなんとかしてくれるだろうと思うようになる。

「こんなことだから、豊かになったのにまるで幸せが実感できない」

実際、日本人はとても豊かになったはずなのに、なかなか幸せが実感できないようです。国連の関連団体が発表している「世界幸福度ランキング」、2019年は世界156カ国を対象に調査が行われましたが、日本はなんと58位でした。

しかも過去5年の推移を見ても、46位、53位、51位、54位ときて58位、さらに順位を落としています。

この手のランキング指標は、調査の仕方や項目、また国民の意識や文化の違いが影響するとも言われますが、それにしても低いのです。世界第3位の経済大国で、モノも店も溢れている極めて豊かな国なのにです。

曽野さんは、こうも言われていました。

「日本人は、幸せを感じるバーをあまりに上げすぎてしまったのです。私は問題のある家庭に育ちましたから、幼少時代から苦しい時代を長く過ごしました。また、先天的な強度の近視と白内障が重なって、40代では視力がほとんどなくなってしまい、失明するかもしれないという危機に遭ったりもしました。それでも絶望せずにいられたのは、もともと幸せのバーが低いからでした」

そして、自らの生き方について、こう表現されていました。

「ないものを数えないで、あるものを数える人生を送ってきたからです」

多くの人が、曽野さんとは逆の発想をしてはいないでしょうか。あるものを数えないで、ないものばかりを数えている。

もちろん、ないものもある。失ってしまうものもある。しかし、あるものも実はたくさんあるのです。本当にたくさんのものを、すでに手にしているのです。なのに、これが足りない、あれが欲しいと「ないもの」ばかり見ようとする。「ないもの」ばかり数えようとする。そんな人生では、いつもでも満たされるはずはありません。

まずは「あるもの」を数えてみることです。いまこそ、幸せのバーを下げてみることです。

私自身も、日本に生まれただけで、もう90点もらっていると思って生きてきました。これほど豊かで、平和で、自由な国は世界を見渡してみてもどれくらいあるか。

曽野さん世代の強さは、当たり前を疑っていることです。そして、「あるもの」の強さを知っていることです。それは「ないもの」を数えるより、はるかに幸せをもたらしてくれるのです。

連載:上阪徹の名言百出
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文=上阪 徹

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