ないものではなく、あるものを数えなさい──曽野綾子流「危機」との向き合いかた

Yusuke Nishizawa / Getty Images

今回のコロナ禍によって、1年前からは想像もつかない状況になってしまったという人も多いかもしれません。

これまでせっかくうまくいっていたのに会社や仕事の先行きが読めなくなった、在宅ワークで家族関係がギスギスしてしまった、毎年楽しんでいた趣味ができなくなった、友達と思うように会えなくなった……など、それぞれ悩みを抱えていることだと思います。

そんないまだからこそ、ぜひ知ってほしい言葉があります。曽野綾子さんの取材で出合った言葉です。

「安心して暮らせる」は詐欺師の言葉


曽野さんは1931年、東京生まれ。第二次大戦中には疎開も経験している戦争を知る世代です。作家として多くの作品を残す一方、1995年から2005年までは日本財団の会長として、アフリカをはじめ世界各国を歩いた経験も持っています。

同じく小説家であるご主人の三浦朱門さんとともにインタビューをしたのは、2011年、東日本大震災が起きた年の11月でした。曽野さんは、こう語っていました。

「あの震災で人生観が変わった、という人もいるようですが、私には驚くばかりです。そもそも現世は豹変するし、つまり『いつでも揺れる大地だ』というのが、私の基本的な考え方なのです。あるものはいずれなくなるし、盛者は必滅する。実際、そうなのですから」

そして、続けて強烈な言葉を投げかけました。

「私がどうしても信じられなかったのは、『安心して暮らせる』という言葉です。そんなものはあるはずがない。そういう言葉遣いをする政治家は、詐欺師だと思っていました」

実際、曽野さんは40年近く前から、200本にのぼるペットボトルと、50本のカセットボンベを家に常備して暮らしているといいます。

「そもそも、誰かが助けてくれるだろうなどと、アテにしてはいけません。自分の身は自分で守らないと。もし、助けてもらえるようなことがあったら、タナボタだと思わないといけないのです」

厳しい時代を生き抜いてきた人たちの感覚は、豊かな時代を過ごした世代とは違うのかもしれません。しかし、何が本当の現実であるのかということは知っておく必要があります。

昨日と同じ明日が、必ずやってくるなどということは、実はないのです。そんなものは、誰にも保証されてはいません。
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文=上阪 徹

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