金融業界も「SDGs化」、パンデミック債も|シリコンビーチから見るコロナ後経済

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コルテバ・アグリサイエンス(元ダウ・デュポン社)は遺伝子組み換えではなく「ゲノム編集」されたトウモロコシを日本で流通できるよう厚生労働省に申請中。認可されれば、2021年には輸入が開始され、お菓子などの原料となるコーンスターチに使用されるという。

遺伝子組み換えが、ある特定の遺伝子を組み入れるので品種が改良されるのに時間がかかるのに対し、ゲノム編集はある特定の遺伝子を切ったりつなげたりすることで簡単に品種改良ができる。今回のトウモロコシは収穫量の多い品種にもちもち感を増すよう、ゲノム編集がほどこされた。

「モンサント、デュポン、コルテバなど、水や穀物の分野の大手水や穀物メジャーと言われる企業は、世界で商売にならなくなってきています。そこで次々と日本市場をねらってやってきています。欧米では、遺伝子組み換えしたものは基本買わない。ゲノム編集された穀物も同様でしょう。そういうものを生産する企業はとことん嫌われています。しかし、日本でそのことを知っている人はどのくらいいるでしょうか。日本人は意図的に“情報弱者”にされているんじゃないか、と思うほどです」(世野氏)

「ESG債」市場は1兆ドル規模。「パンデミック債」も


欧米では、金融業界にも環境や社会貢献を重視する流れがきているという。「ESG債」という債券投資も近年人気だ。「Emvironment(環境)Society(社会) Governance(企業統治、ガバナンス)」の略で、何かが起こったときに誰かを救済するスタイルの債券のことをいう。グリーンボンド(環境債)、ソーシャルボンド(社会貢献債)、サステナビリティボンド(環境と社会の両方に関連する債券)の3種類ある。

たとえば、大地震や津波など、大災害が起きた際、発展途上国にお金を補填するが、満期までに何も起こらなければ返金される。リスクが高いのでその分利回りも大きいが、人気は高く、近年は債券市場の1%ほどにあたる約1兆ドル発売されているという。ちなみに、2017年にはESG債のひとつである「パンデミック債」なるものが総額350億円ほど発行された。

リスクに応じて2種類ある。ロンドン銀行間取引金利プラス、年間6.5%のA。ただしパンデミックが起こった場合には、集めたお金のうち16.67%が発展途上国に送られるという条件。そして、ロンドン銀行間取引金利プラス、11.1%のB。年利はAより高いが、「パンデミックが起こった場合には全額失う」という仕組みになっている。

「この債券の満期が今年の7月15日。パンデミックかどうかの認定はWHOの発表によります。今回、WHOによるパンデミック宣言が遅れましたが、その理由のひとつは、ウォール街から、『パンデミック債の満期の時期まで引き延ばせ』という圧力がかかったのではないか、とも言われています」

「大企業向き」の時代は終わった


世界の流れは確実にシフトしている。

「この大きな流れに気づくことのできない日本の大企業は、これから非常に厳しい時代になるのではないか、と個人的には感じています。これまで大企業は、政府の政策や法律、規制のもとに庇護されてきました。でも、もうすでに時代が大企業向きではないのです。これまでは大規模な商売をしたければ、大企業でなければできなかった。流通、倉庫、開発費をはじめとする巨額な設備投資など、大きな資本とマンパワーが必要だったからです。

でも、今はひとりでも大規模な商売ができる。なぜかと言えば、すぐれたインフラを個人で安く自由に使える時代になったからです。たとえば、アマゾンの「FBA」(Fullfilment By Amazon)を利用すれば、倉庫、在庫管理、決済、配送、返品対応、カスタマーサービスなどをすべてアマゾンが代行してくれる。売れそうな商品さえ見つけることができれば、日本にいながらにして全世界を相手に商売することができます。大きな組織が意味をなさなくなってきているということです」

これまでの大企業至上主義、人間ファースト、利益中心主義の生き方から、個人で地球と共生する生き方、そして誰かの役に立つための生き方へシフトする時期に来ているのではないだろうか。

皮肉なことに、新型コロナの影響で人々が自粛生活を送っていることから、ベネツィアの水はキレイになったという。ロサンゼルスの夕日はかつてないほど美しく見え、インドからチョモランマが見えるようになった。絶滅危惧種と言われたウミガメが、タイのひと気がなくなったビーチで繁殖しはじめているといううれしいニュースもある。

今こそ、これまでに自分たちが「当たり前」と考えてきた仕事の在り方、そして生き方を見直し、平和で住みやすい地球を次世代の子どもに継承していけるよう、行動を起こす時だろう。


世野いっせい◎投資家。米国シリコンビーチ在住。米国不動産を中心に資産を築き、年間不労所得は3億円を超える。著書に、『お金持ちの「投資家脳」、貧乏人の「労働脳」 ──本物のお金持ちしか知らない55の法則』(河出書房新社)、『金持ち脳でトクする人 貧乏脳でソンする人 一生お金に困らない55の法則』(PHP文庫)。

構成・文=柴田恵理 編集=石井節子

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