何十億もの人々が自宅にこもることを余儀なくされ、飛行機が飛ばなくなり、クルマが駐車場に置かれたままになり、工場の稼働が停止するなどの事態によって、世界経済はいまだかつてないほどの混乱に陥っています。しかし、このような混沌の中にも1つ良い面があります。私たちは現在、温暖化ガスの年間排出量において過去最大の減少を達成する見込みです。
多くの人々が新型コロナウイルスの影響を受ける中、このパンデミック以外のことについて考えるのは難しいかもしれません。しかし、「不都合な真実」かもしれませんが、気候変動は私たちにとってこれまでになく重要な課題となっています。
今回のパンデミックから、私たちはシステミックリスクの現実化が人類にもたらす脅威について大切な教訓を学びました。世界のどこかで起きた出来事が、全人類に深刻な影響を及ぼす可能性があるということ。そしてサブプライム住宅ローン危機などの金融危機と違って、人間の感情のみによって動かされているわけではないということを学びました。
パンデミックも気候変動も、世界の全体的な仕組みに対して物理的な衝撃をもたらすため、市場センチメントの回復では解決できません。根底にある物理的な問題に対処するほか、解決する方法はないのです。
パンデミックと気候変動が異なる点は、そのタイムスケールです。すでにわかったように、パンデミックは突然はじまり、数か月のうちに大混乱をもたらします。一方で、気候変動は徐々に進みます。何十年というスパンで計測されるわずかな気温変化が積み重なり、転換点に達すると、自然災害の発生頻度が増すようになります。
このように気候変動による壊滅的な影響はパンデミックと比べてずっと長い期間にわたって発生するため、それを解決するのにも同様に時間がかかる可能性があります。回復に何十年もかかることで、気候変動に伴う「システミックな」コストはどんなパンデミックよりもはるかに大きなコストへと膨れ上がるかもしれません。
もちろん、これは回復できるという前提があってこそ言えることです。喫煙者に例えると、何十年も特に問題なくタバコを吸い続けたとしても、ある日突然、肺ガンと診断されるかもしれません。そのときにはすでに取り返しのつかない状態になっているかもしれませんし、あるいは途方もない代償を支払うことになるかもしれません。このような大きなリスクを前に、何もせずに傍観しているわけにはいきません。