ひと言で表現すれば、映像と演奏の端末を別々に準備し、同時配信向けのソフトウェアを吟味し、光回線(つまり有線)を通じ、ディレイを回避するための独自の工夫がなされているのだ。
着眼すべきは、ちょっとしたカラオケレベルではなく、LITEのように歌詞もなくメロディ・ラインよりも、各パートのアンサンブルが非常に重要なインスト・バンドが、生命線である各楽器のシンクロに成功している点だ。レイテンシーは認められるものの、遠隔同時演奏生配信に成功した努力は見逃せない。
創意工夫次第では、こうして新しいLIVE活動が、より普遍的に具現化できる世の中に、我々が身をおいているという可能性を示してくれた。新型コロナの怪我の功名だ。
映像伝達のディレイを解決する3つのポイント
NTTドコモは、「新しい生活様式」が提言されるこんな事態を想像だにせず、2017年11月、人気グループ「Perfume」を起用し、3人のメンバーを東京、ニューヨーク、ロンドンという約1万キロ隔離された3都市に配置し、5Gを通し同時パフォーマンスする映像を中継、リアルタイムで合成し、距離を越えたライブを具現化。これをやはりYouTubeを使い、世界同時配信した。
課題はLITEのライブ配信同様、映像伝送のディレイ。1万キロメートルの距離となると、光回線を使用してもそれは不可避。毎秒160メガビットの映像をニューヨークとロンドンから東京へ送り、それぞれ東京の映像とぴったり同期する通信技術が求められた。
技術的なポイントは3つ。まずは、5Gを駆使した点。4Gでは30~100ミリ秒程度のディレイが発生するとされ、5Gの活用によりこの遅れをわずか1ミリ秒程度に抑えたという。
2つ目は、NTTが開発した「kirari」という映像や音声の同期技術を使った点。これにより遠隔地でも臨場感あふれる映像・音響を伝送可能にした。ネットワークの遅延、差異をすべて考慮し、東京に映像が送られてきた時に、ニューヨークとロンドンの映像が同期させるよう調整を重ねた。
3つ目は、通信手段として一般的なインターネットではなく、米国や欧州の研究機関が運営する学術ネットワークを使用。一般と共有する回線ではないためトラフィックに「詰まり」が生じず、NTT発表によると、映像伝送の遅れは100~200ミリ(ミリは1000分の1)秒程度に抑えられたとされる。
世界3都市に散らばったPerfumeの3人がシンクロするパフォーマンスは、ライブ視聴で20万人を超えたとNTTは発表している。
当時、この映像の臨場感にたまげたものの、「それぞれが別の場所でライブを披露しなければならないニーズが理解できない」と考えた。だが、現実世界とは奇妙なもので日本で5Gが商用化された2020年、新型コロナの影響でそのニーズが生まれてしまった。
この実証実験はNTTグループの威信をかけた案件だけに、数億という予算をかけたと耳にしている。日常的に活用するには不可能だ。
しかし、「ローカル5G」普及後の世の中では(おそらくほんの数年後になると予想されるが)、LITEの試みも手元のPCや端末を経由するわずかなディレイを除けば、少し楽に具現化できるはずだ。5Gは無線であるがゆえ、屋上や公園などの屋外からライブパフォーマンス発信可能となり、離れていても解放感ある映像をファンに届けられる。