シリコンバレーには、こうしたソフトバンクの動きについて本気度を疑う声や、対応の不足や遅れを指摘する声も大きい。また、ビジョン・ファンドの投資実績を見ると、初回の投資額は平均で4億ドルを超えており、ウィーワークやウーバーのように総投資額が数十億ドルにおよぶ例もある。巨額の調達を果たしたスタートアップは、さらなる金の流入を見込むがゆえに、規律を欠いてしまうことがある。また、潤沢な資金を使って高い成長を遂げてきた経営チームが、減速してキャッシュを貯めろと言われたとき、すぐにピボットできるとは限らない。
「ソフトバンクをエコシステムの害毒だと見なす向きもあります。救世主ではなく、ね」と、犬の散歩代行アプリのワグに出資したブルペン・キャピタルのパートナー、ダンカン・デイビッドソンは言う。ソフトバンクもワグに3億ドルを出資していたが、最終的には同社に売り戻す形で損切りした。「彼らが現れなければ、業界全体がもっとハッピーだったはず」。
ビジョン・ファンドが史上最大級の成長を期待されている一方、皮肉なことにソフトバンク自体はいまやバリュー株だ。孫はここ数年、同社株が保有資産と比べて割安であることに不満を述べてきた。実際、ソフトバンクのアリババに対する持ち分は、それだけでソフトバンクの時価総額を超えている。また、ソフトバンク株を買えば傘下のアームやソフトバンク社、そしてビジョン・ファンドのあらゆる出資先企業を一部であれ保有できることになる。
「ビジョン・ファンドばかりが話題になりますが、グループ全体を見てほしい」と、ソフトバンクの最高執行責任者(COO)であるマルセロ・クラウレは言う。「アリババは1週間で、ウィーワークへの投資総額以上の利益をもたらすこともあるのです」。
そう、ウィーワークに話を戻そう。同社にかかわる評価損は数十億ドルを超える。この一件のために「逆張りの天才」という孫の評判は崩れ、いまや「大麻を吸う、ガバナンスのなっていないタイムシェアのセールスマンに一杯食わされた男」との揶揄(やゆ)もある。
孫は言う。「いつだって難しいものなんですよ。これはサイエンスではなく、アートです。偉大に思える起業家に興奮を覚えても、常に偉大なリターンがもたらされるとは限りません」。
孫が見るのは、光か影か──。続きは、Forbes JAPAN 7月号「パンデミックVSビリオネア 変革を先導せよ」特集にて。
これまで世界をリードしてきたビリオネアや起業家はこの危機にどう立ち向かったのか。孫正義のほか、ズーム創業者が語る「コロナ騒乱の舞台裏」や、オラクル創業者のラリー・エリソンがハワイでつくる「実験ユートピア」、米テック業界No.1の女性富豪がつくるスタートアップなど、注目の特集をぜひお見逃しなく。