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2020.05.25

「過去は忘れてください」孫正義が独占告白、ウィーワーク、ウーバー、戦術の悔い


しかし次の10年で、ソフトバンクは華麗な復活を遂げる。第一歩は00年に20億円を投じたアリババだった。以降、孫は巨額の借り入れを行いながら、果敢な買収を続けた。そして17年、孫は新たな勝負に出る。未公開IT株に投資する史上最大のファンド、ビジョン・ファンドの設立だ。投資指針は、AI大革命後の世界において、マーケットリーダーとなるスタートアップであること。

「インターネットはこの20年で広告業界と小売業界を破壊しました。ですが、まだそのふたつだけです。AIとかけ合わせれば、インターネットはすべての産業を破壊するはずです」
 
ビジョン・ファンドの指揮を任されたのは、長年の盟友のラジーブ・ミスラだった。ミスラは毀誉褒貶(きよほうへん)はあるものの銀行員として有能であり、ドイツ銀行にいた2000年代に、孫の複雑な金融取引を支えた人物だ。ビジョン・ファンドでミスラは、サウジアラビアの政府系投資ファンドを筆頭とする投資家に参加を促し、総額1000億ドルの第一号ファンドを組んだ。そして孫の「AI群戦略」の一員となりうるスタートアップに、次々と大型出資を行った。

投資先は、ガンの検査を行うガーダントヘルスなどのAIがコアコンピタンスであることが明確な企業だけでなく、インドのeコマース企業フリップカート、ウーバー、スラックといった、「AIと自動運転車に支配された世界において、孫が“最も必要とされる”と考えるツール」も含まれる。

「20年前の人々は、『アマゾンがインターネット企業? ただの小売業だろう』と言っていましたよね」と、孫は言う。「いまの人たちも、それはただの輸送だとか、ただの不動産だと言っています。ほんの少しだけAIを使った、別の何かだと。しかし、これはほんの手始めなのだと理解したほうがいい」

長期的には納得のいく話だが、足元の状況を鑑みれば空疎にも聞こえる。前述した3月下旬の「守り体制」への方針転換より前、つまり新型コロナ禍以前から火種はくすぶっていた。ニューマンら既存株主から30億ドル相当のウィーワーク株を買い取るとしていた方針を、条件を満たしていないとして撤回。

eコマースのブランドレスに分割供給していたキャッシュも差し止め、同社を廃業に追い込んだ。不動産テックユニコーンのコンパスや小規模事業者向けローンのキャベッジは、従業員の解雇に舵を切った。ソフトバンクは約20億ドルを出資した衛星通信ベンチャーのワンウェブにも、破産申請をさせるしかなかった。後を追う会社も出るだろう。「15社ほど破綻するかもしれません」と、孫は言う。

しかし同じ数、つまりたとえば15社ほどが大きく成長するなら、それでもいいのです、と孫は言い添える。ビジョン・ファンドが1500億ドルのリターンを得られるなら、出資者に元本及び約束した年率7%のリターンを支払ったうえで、なお利益を出すことができるという。だとすれば、勝利の見えている会社に経営資源を集中させるのは必然ともいえる。
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文=アレックス・コンラッド 翻訳=町田敦夫 編集=杉岡 藍

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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