──バーチャルとリアルの融合、あるいは往還ですね。21世紀前半の最大のテーマかと思います。
おっしゃる通りです。新しい5G時代のXR技術が、現代のインターネットと掛け合わされる。それでインターネットそのものがアップデートされていく。インターネットの外にVRができるわけでなく、インターネットの中で進化していく。ここが掛け算の産業革命となるための重要なポイントだと見ています。
──例えば、サプライチェーンも大きく変わると。
衣料品を販売する企業は、店頭の棚の売れ行きを見ながら上流の工場をコントロールしています。無駄が出ないような仕組みですね。店舗から上流の生産工場へフィードバックされ、売れない色やサイズは増産しない。極端に言えば、今後はオーダーメイドになり、店には商品はないけれど、顧客ごとにカスタマイズされたものだけを家に届けることだってできます。
農業にしても、個人が欲しい品種だけが、顧客の手元に届く。サプライサイドから生産ラインをコントロールすることができて、すべての産業が激変します。これには、5Gの技術が非常に重要な役割を果たします。
5Gでは、すべての産業そのものの構造が変わる、このインパクトは過去にないものになるでしょうね。「私は5Gとは関係ない」と思っている人がいるかもしれませんが、これを知らないと世の中から取り残されます。
5Gが実現する新しいスポーツ観戦
──ドコモやソフトバンクも5Gをスタートさせましたが、KDDIが取り組む他社とは違う部分はどういった点でしょうか?
究極的にいうとエンターテインメントからスタートするところですね。5Gの適用範囲は先ほども言いましたが全産業にわたりますが、KDDIでは「スタジアム」「コンサート会場」「渋谷」といったところから始めていきます。
──コンテンツから入るという意味ですか?
そうです。KDDIはJリーグの名古屋グランパスと業務提携をしているのですが、5G時代のスタジアムのあり方というものを、KDDIがパートナーとして提供することが決まっています。次世代のデジタルスタジアムというもので、パートナーシップ契約を結んでいます。さらにプロ野球では横浜DeNAベイスターズさんとも同じような取り組みをしています。
5G時代を見据えた取り組みそのものは以前から始めていますが、5Gの特性上エリアをつくるのに時間がかかる。そのため、どこもかしこもというわけではなく、1年目の2020年は特定の分野だけでスタートします。
──スポーツ観戦の体験なども変わるのでしょうか?
5Gを使うと、スマホで1人1人が見ている試合動画の画面も違ってきます。ある人は試合全体の画面、ある人はお気に入りの選手だけを追いかけている画面、別の人はあらゆる角度から見ている画面と、そうやってカスタマーの観戦体験が同じ試合でも1人ずつ違ってきます。
画面には、同時にトラッキング(ユーザーがどこを見ているのかを追跡して分析すること)の情報などもリアルタイムにアップされます。5Gの大容量・低遅延といった特性から、このようなことも可能となります。いまは新型コロナウイルスの影響で、Jリーグもプロ野球も試合は延期されていますが、事態が沈静化したら、実際に名古屋グランパスや横浜DeNAベイスターズの試合で、ぜひ試してもらいたいですね。