「公益」がAIの社会実装を加速させる 中国ではバイドゥが率先

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中国IT大手・バイドゥ(百度)が、人工知能(AI)の公益利用のための計画を強化する。

5月中旬には、公益プロジェクトである「星辰計画」を発表。開発者や企業家が、社会課題解決に資するAIアプリケーションを効率的に生み出せるようオープンプラットフォームを拡充し、同時にデータや資金の支援を行っていくことを表明した。

今後、バイドゥのオープンプラットフォームを使えば、医療、環境保護、安全(パブリックセーフティー)などの分野のアプリケーション開発スピードを高めることができる。なおバイドゥが保有するプラットフォームには、すでに約5億6000万件のデータが共有されており、200以上の公益プロジェクトに利用されているという。今後、年間100億件以上のデータ供給を目指し、同時に開発者を支援するファンドも組成する計画だ。

バイドゥは、自社のディープラーニング・プラットフォーム「PaddlePaddle」(飛櫂)などをベースにした応用事例が増えていることと関連して、今回の公益プロジェクトの強化に乗り出したようだ。

コロナ禍においては、PaddlePaddleをベースに、「マスク顔認識検出・分析」「肺炎CT映像分析」などのシステムが開発された。前者は、マスクの着用の有無などを検出するシステムで、すでに中国の公共スペースや公共交通機関などに実装されている。

バイドゥ自身も公益利用のためのAIツール開発を手広く行っている。例えば、手話をAI翻訳するツールを開発中で、障がいを持つ子供たちのためのツール開発を行う専門チームも発足させている。ここ数年では、失踪児童をみつけるAIツールも脚光を浴びており、3年間で1万件以上の失踪事例を解決した実績がある。

また、国際動物福祉基金(IFAW)と提携し、「AI保護プロジェクト」も展開中だ。これは、野生動物の違法貿易を防ぐためのもので、検疫段階でその是非を判別するシステムを開発している。

人工知能は人々にとって“諸刃の剣”だ。個人データやプライバシーを“肥料”とする監視ツールになる一方で、さまざまな課題解決やタスク自動化を促すテクノロジーにもなりうる。日本を含む欧米メディアは、AIを使った中国の監視に焦点を当てる傾向が強い。だが実際のところ中国では「誰もが人工知能の恩恵を受けられる」という社会状況も着実に整いつつある。つまり、AIが持つメリット・デメリットのバランスが整い始めているのだ。

日本など民主主義国家においては、人工知能は社会のコンセンサスなしには発展しえぬ技術である。中国のように、プライバシーや個人情報を強引に活用することはできないからだ。しかし、社会全体がAIの恩恵を受けることができるようになれば、データを差し出す心理的ハードルは下がる。

そう考えると、いち企業のためでなく、社会課題の解決など公益のためのAIの存在は必須となるかもしれない。公益のためのAI技術を、日本ではどの企業が率先して開放していくのだろうか。

連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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文=河鐘基

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