中国では、毎年、数百万人の行方不明者が発生するとされている。仮に誰かが行方不明となった場合、警察はその地域で同じ年齢帯の人々を調査対象とする。その数は数十万人規模だ。さらに調査範囲を他省まで広げた場合、対象者は数千万人にまで膨れ上がる。搜索に途方もない人力が必要となり、警察としてもお手上げとなることが少なくない。
1091人を探し出したテンセントの活躍
そのような背景のなか、中国の番組である「私を待っていて」では、警察がIT大手・テンセントと協力するシーンが登場する。
テンセントは持ち前の顔認証技術を駆使し、13歳の子供を発見する捜査に合流。子供が誘拐されたのは10年前で、当時の年齢は3歳だった。テンセントの顔認証システムは幼い頃に残された画像1枚から、成長した人物と推定される5人の候補を選出。最終的にDNA検査を行うことで、行方不明の子供本人を見つけることに成功した。
なお、テンセントの顔認証技術の精度は99.99%で、数秒で数千万人の顔を照合することができると説明されている。また、失踪者や行方不明者の顔の変化を予測する技術も持ち合わせている。日本の関連技術開発者に話を聞いたところ次のような指摘もあった。
「顔の特徴はある時期を境に変わらなくなる。現行のトップクラスの技術を持ってさえすれば、化粧をしていたり、整形をしていたり、また顔の一部が隠れた状況でも同一人物を特定することができるでしょう」
テンセントは同番組だけでなく、福建省の地域警察などにも協力。行方不明者の捜索に参加している。同省公安庁が運営する失踪防止プラットフォームと連携し、これまで1091人の行方不明者を探し出したという。また2018年10月時点での統計になるが、テンセントの失踪調査アプリは約600人の行方不明者を見つけることにも寄与したとされている。
「AIが社会監視に用いられている」と、日本を含む欧米社会からバッシングを受けている中国。とはいえ、顔データや監視カメラなどが連動していなければ、今回のような行方不明者の発見も実質的に不可能だったに違いない。テクノロジーが有効に使われるか否かは、各社会の構成員次第ということ改めて実感させてくれるユースケースだ。
現在、行方不明者を探す技術は、インテルやTikTokの運営企業バイトダンスなどでも開発が進められている。顔認識技術のメリット・デメリットについての議論は、今後さらに勢いを増しそうだ。