経済・社会

2020.05.13 06:00

コロナ危機で再燃するユニバーサル・ベーシックインカム議論。実現の壁は何か

否定論者から「それは左翼の理論だ」という批判が出ないように、経済協力開発機構(OECD)は、税競争の概念について何年も前から提言を行ってきました。OECDには、アメリカ、カナダ、西ヨーロッパの各国が加盟しています。

OECDの財政政策専門家は次のように述べています。

「グローバル経済をうまく機能させるには、政府や企業を導く指針となる受け入れ可能な基本ルールが必要です。こうした枠組みがあれば、企業が利益を最適化できる場所に資本を移しやすくなります。しかも、グローバル化の利益とコストの公平な分配を求める国民の正当な期待に応えるという、各国政府の目的を妨げることにもなりません」

実現には協力と連携が不可欠


「受け入れ可能な基本ルール」と「利益とコストの公平な配分」を達成するには、全世界一丸となった連携が必要です。

特定の国だけがこうした課税制度を導入すれば、流動性の高い資本は、こうした制度がない国に逃げるからです。UBIの導入が困難であることは間違いありませんが、UBIのプラスとマイナス、なぜこれまで本格的に導入されなかったのか、どのような方法であれば実施できるのかを公平な目で検討することが重要です。

UBIの実施を複雑にしている主な要因は、財政的なコスト以上に、単独では実現できない、つまり協力と提携が必要不可欠な施策だという点です。各種保険や、必要がある人が利用できる制度など、今ある一連の社会保障制度に適合し、それを補完する施策である必要があります。また、不正給付(二重取り)を防ぐためのルールの整備も重要です。

こうした制度に移行するには、仕事を持つことへのインセンティブが損なわれない仕組みづくりが必要です。これは比較的簡単なこと。UBIは、労働、貯蓄、投資に十分なインセンティブを残しつつ、最低限のラインで生活を支えられる内容にすれば良いのです。

最後に、選択的な条件については、説得力のある議論が可能です。例えば、すべての子どもが予防接種を受けられる、あるいは学校に通えるなど、公共財に関する条件です。こうした選択的条件があることで、貧困をなくすという目的を損なうことなく、低所得者が想定内のリスクを負いながら、貧困から抜け出すことも可能になるでしょう。

UBIを導入しない場合に想定される最悪の状況は、社会不安、紛争、制御できない規模の移民の発生、そして、社会的な絶望を煽りそこに付け込む過激派組織が出現することです。こうした危険を回避するためにも、綿密に計算されたUBIの導入を真剣に検討する必要があるでしょう。衝撃は受けたとしても、社会が崩壊しないように。

(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)

連載:世界が直面する課題の解決方法
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文=Kanni Wignaraja Assistant Secretary-General, United Nations & Balazs Horvath Chief Economist, UNDP, Asia-Pacific

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