表1で興味深いのは、抗体陽性率について、国ごとに大きな差があることだ。日本や中国などアジアは低く、欧州が高い。注目すべきは米国だ。ニューヨーク州が12.3%、21.0%と高いのに対し、カリフォルニア州は1.5%、4.1%と低い。欧州や米国東海岸などの大西洋周辺地域が高く、アジアや米国西海岸などの太平洋周辺地域が低いという見方も可能だ。
なぜ、このような差が生じるのだろうか。これについては、十分な研究が進んでいない。ウイルスの突然変異によるものか、あるいは民族的な差なのか、環境的要因によるのか、今後の検証が必要である。
ただ、これまでの研究で、欧州とアジアでは、流行している新型コロナウイルスのタイプが異なることがわかっている。もし、欧州で流行しているウイルスが強毒な場合、それが第二波でアジアに流入すれば、第一波以上の被害が出る可能性がある。
その際に必要なのは、国内で流行している新型コロナウイルスの遺伝子配列を調べることなのだが、PCR検査すら抑制してきた日本では、国立感染症研究所がクラスター対策の一環として細々と実施しているだけなので、急ぎそのための体制を整備しなければならない。
話を戻そう。抗体検査が有意義なのは、感染率の推定だけではない。流行時期の再評価にも役立つ。5月3日、パリ近郊のセーヌ=サン=ドニ県の医師たちは、昨年末にインフルエンザのような症状で入院していた患者の保存血清を用いて、抗体の有無をチェックしたところ、アルジェリア生まれの42歳の男性が陽性と判明した。この男性は、長年フランスに住み、中国への渡航歴や中国人との接触歴もなかった。
これまで、フランスで新型コロナウイルスが発見されたのは、1月24日に武漢への渡航歴がある2名のケースが最初だと考えられていた。今回の報告は、昨年末の時点で、フランスではすでに感染が始まっていたことを示唆する。
日本でも同様のことが起こっていた可能性がある。日本では、東京オリンピックの延期が決まった3月24日以降、PCR検査数が急増した。そして、感染者数が増加し、緊急事態宣言へとつながる(図1)。検査数を増やせば、感染者数が急増するのは自明のことだ。すると、検査数を増やした時期に急速な感染拡大が起こったようにも見える。果たして、実態はどうなのだろうか。
図1
幸い、日本では日赤が輸血の献血者の血清を長期間にわたり保管している。その一部を用いれば、いつから国内で流行が始まったかは検証可能だ。既に厚労省は日赤に調査を依頼している。1日も早い結果の開示を期待したい。