新型コロナの「第二波」はどう乗り越えるか 抗体検査と超過死亡が示す現実

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「超過死亡」という流行の指標


抗体検査と並ぶもう1つの指標が「超過死亡」だ。超過死亡とは、世界保健機関(WHO)が提唱した、インフルエンザ流行による死亡数を推計するための指標だ。非流行時の場合に発生すると考えられる死亡数(悪性腫瘍や心疾患などによる)をベースラインとし、流行時の実際の死者数と比較する。

超過死亡が存在するということは、何らかの感染症の流行がなければ、死亡者の増加が説明できないことを意味する。つまり感染症の流行の度合いが測れることになる。これを新型コロナウイルスにも応用しているのだ。

米国エール大学公衆衛生大学院の研究者たちが、米疾病対策センター(CDC)の統計データをもとに超過死亡を推計したところ、3月1日から4月4日の間に約1万5000人が新型コロナウイルス感染とは診断されずに亡くなっていた。この期間に新型コロナウイルスによる死者は約8000人だから、約2倍だ。これは感染が深刻だったニューヨーク州とニュージャージー州で顕著だった。

超過死亡の推定は、世界各国で進んでいる。表1に現在、超過死亡の存在が確認されている地域を示す。流行が確認されている地域では、基本的に超過死亡が確認されている。

日本も例外ではない。国立感染症研究所によると、第8〜13週にかけて、東京ではベースラインと比較して、1週間あたり50〜60人程度の超過死亡が確認されている。これは2月16~22日の週から3月22~28日の週に相当する。

図2は国立感染症研究所のホームページから借用したものだ。実は、この時期に、韓国も台湾も感染のピークを迎えていた。ところが、厚労省は、この時期は感染を完全に抑え込むことに成功していたと説明している。現在も、この主張を変えていない。


図2 出典:国立感染症研究所ホームページ

前述したように、日本では3月24日に東京オリンピックの延期が決まり、それ以降、PCR検査数が増加する。それに伴い患者数が増える。4月7日に緊急事態宣言が発出されるが、3月29日~4月4日の週には超過死亡は消滅している。国立感染症研究所は、それ以降の超過死亡についてのデータを公表していないが、ここまではPCR検査数が示す感染者数の動向とまったく異なる。

実際の死者数と、氷山の一角しか診断しないPCR検査数、いずれが推計として相応しいかは議論の余地はない。

英医学誌「ランセット」は、5月2日に「COVID-19:毎週の超過死のリアルタイム監視の必要性」という論文を掲載している。「リアルタイム」で迅速かつ定期的に評価することを求めている。残念なことだが、日本のメディアで超過死亡の問題を大きく扱ったところはない。

一方、大阪や神戸の超過死亡の有無については、現時点では評価不能だ。大阪は第9週までのデータしか公開されていないし、神戸に至ってはデータが開示されていない。

先ほど、エール大学公衆衛生大学院の研究者がCDCのデータを用いて超過死亡を推定したことを紹介した。日本でCDCの役割を担うのは国立感染症研究所だが、データ開示については消極的だ。
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文=上 昌広

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