個人の身長を単位にするとは大それた話だが、それはもちろん、ただの学生のおふざけだった。ところがその目盛りは、ナンセンスな話として葬られるどころか、粋な警察が面白がって目印に使うようになり、ハーバード橋の上で交通事故などが起きると、調書にスムートで位置が記されることになる。
こうした奇行はMITでは広くはハッキングの一種と見なされており、コンピューターが一般化する前から、高いドームの屋根に一夜にして自動車や小屋を持ち上げて飾ったり、数時間で寮のドアの前に雪を積んで分からなくしたりと、人をあっと言わす行為が横行していたため、スムート測量もその伝統の一つとみなされている。
こうして伝説のスムート印はついにはボストンの名物と化し、2008年にはその誕生50周年が祝われることになり、記念碑も建てられることとなった。そしていまでも後輩の学生たちは、橋に書かれたマークが消えないよう毎年塗りなおしているという。
この席にも招かれたオリバー・スムートは、卒業後は着実なキャリアを経て、米国国家規格協会(ANSI)の議長や国際標準化機構(ISO)の会長を務めるなど、まさに世界の規格化の中心的役割を果たした有名人になっていたが、その彼が人類の測量の起源を体現していたとはなかなか感慨深いものがある。
自分の身長を元に世界のサイズを測ったらどうだろうと、想像するだけでも楽しいが、そうした単位も誰もが知らなければ独りよがりの妄想のままで、誰にも通用せず利用価値がない。それは言語のようにコミュニケーションの道具でもあるからだ。