ICU在校生に向けた岩切正一郎学長から「授業料および施設費に関する疑問への回答」と題したメールだ。3000字にも及ぶ長文と学費収入の使途詳細を示した添付ファイルからは、学生へ理解を求める気持ちと形態が変わっても良い教育を提供しようとする覚悟が伝わってきた。筆者自身、納得のいく説明だったためここでその要約をご紹介したい。
「施設費というのは『施設利用料』ではなく施設の取得、維持費や物件費の支出に当てられているため、施設を使用しないから経費が発生しないわけではない。また、ICUでは卒論などの執筆を行なっている学生に対してのみ図書館から送料大学負担の図書の貸し出しを行なっており、そのための費用も必要だ。このサービスに対して、一部の学生のみで不公平だという声があることを承知の上で『大学も市民社会と同じで、全体で支え合うという精神で運営されています』と答え、大学を構成する者としての協力と理解を呼びかけた。また、臨時の奨学金の給付やオンライン授業に必要な機器の貸し出しを行うとした上で、施設費や授業料の減額は行わないとしている」
学生の声に反応した大学は他にも多数ある。
立教大学は4月25日に、オンライン授業の準備を整えるための「学修環境整備奨学金」として全学生に対し一律5万円を給付すると発表。明治学院大学でも同じく5万円の支援策が取られ、広島大学ではアルバイトが減り困窮している学生への支援策として申請があった学生に対し「応急学生支援金」として1カ月3万円を支給する。
また、都内の多数の大学で学費納入期間の延長やWi-Fiルーターなど必要機器の無償貸し出しを行なっている。もちろん、このような支援策が行われていない大学もあるし、この程度では少ないとの意見もあるだろう。しかし、一切授業を行わないという選択肢もあった中、教育の機会を提供してくれる大学側の対応にも学生として感謝したい。そして、大学は学生や保護者の信頼を得るためにも、施設費や授業料の収支を公表することが求められている。
非正規雇用の教員にも不安が広がる
休校措置や授業のオンライン化は、教える側にも多大な影響を与えている。
特に非常勤の教員は、収入が不安定な人も多く雇い止めにされる懸念も出てきているのだ。通常、非常勤講師の給料は授業コマ数とコマ単位に応じて支払われるため、授業がない場合は収入がゼロになってしまう。私立学校の教員で組織される労働組合の私学教員ユニオンは、緊急のホットラインを設定しており、すでに多くの相談が寄せられているという。
Change.orgには、非常勤講師に賃金補償を求める署名キャンペーンも出されており、すでに6000名の賛同とともに政府への要望書を提出している。コメントには、非常勤講師の現状を可視化できたことへの感謝なども述べられている。
自宅からのオンライン授業には、学生と同じかそれ以上に必要な機器を準備することも求められる。また、非常勤講師の他にも食堂の調理員や様々な職員が大学を支えている。このような緊急事態に陥り、講師らにしわ寄せがいくのは大学も学生も望んではいない。
新型コロナウイルスの影響により学生、大学、教員それぞれの立場で困惑が広がっている状況だ。9月を新学期とする案も上がっており、教育の現場はますます混乱するだろう。しかし、この状況下でも学ぶ場を守り続ける人がいることを忘れてはいけないと思う。誰も取り残すことなく危機を乗り越えるためにも、日頃から三者の対話が行われることが大切だと強く感じる。