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2020.04.29

メルセデス・ベンツ初の「EV車」の出来 あえて専用設計を選択しなかった理由

メルセデス・ベンツ EQC400

歴史ある独自動車メーカー「メルセデス・ベンツ」。同社がこのほど、初のEV「EQC」を開発した。その高級ブランドと違和感のない出来に仕上がっている。同社があえて専用設計を選択しなかった理由とは?


メルセデス・ベンツは最も歴史のある自動車メーカーで、高級車ブランドの中では最も売れているブランドの一つである。革新的な技術を頻繁に導入してきている点でも、業界内の評価は非常に高い。

だから、同社が何か新しい試みをすると業界がざわめく。しかし量産型の電気自動車(EV)の導入では、なぜかライバルに後れを取っていた。

ついに登場したメルセデス初のEV車「EQC」は、テスラ・モデルXやジャガー・I-PACE、アウディ・e-tronなどのあとに、市場に顔を見せることになる。ここで補足をすると、同社は確かにスマートのEV車やAクラスをベースにしたEV車「E-CELL」は、すでに出していた。だが、それらはあくまでも少量生産車。そういう意味では、EQCが同社初の大量生産型EVになる。

では、メルセデス社内で新しくできた「EQブランド」のトップバッターとして登場したEQCは、どんなクルマなのか。それを確認するために、昨年末に日本に上陸した「EQC400」に試乗してみた。

まず知っておきたいのは、同車は「専用設計」ではない、ということである。例えば、ゼロから新設計されたジャガー・I-PACEが専用設計になっているのに対し、EQCは、既存のガソリンエンジン搭載のSUV「GLC」の車体と生産ラインを共用している。

近い将来、自動車メーカー各社はEVをしっかりと作らなければならなくなるだろう。その悩みの種の一つに、EVの開発にどれだけコストを費やすべきか、がある。EVには莫大な投資が必要になる。しかし専用生産ラインどころか、専用工場まで新設したところではたして元が取れるのだろうか、というものだ。

そうしたこともあり、GLCをベースにしたEV作戦は現実的に思える。外観はメルセデスのSUVらしい味が出ているし、グリルの中のデカいメルセデスのバッジもベンツであることをしっかり象徴している。



EQCを作るに当たってメルセデスの技術部は、GLCのガソリンのパワートレーンを取り外し、前後2モーターによる四輪駆動(4WD)システムを採用した。力強い80kWhのバッテリーを採用しているので、新燃費計測モード「WLTP」での航続距離は400kmも出ると言うが、車重が2,500kg以上もあるので、実際はその80%弱が現実的に出せる数字のようだ。EQCはできる限り経済的に走ろうとするロジックをもっているから、場合によっては前輪駆動、あるいは後輪駆動、そして4WDで走ることができる。メルセデス・ベンツは、「エンジン車から乗り換えても違和感がないEV」だというが、その通りだ。

確かに、加速するときやブレーキを踏むとき、コーナーに入る際には車両の重さを感じる。それでもパワー感がしっかりあり、制動力が十分なので違和感を感じない。408psと765Nmのトルクを発揮しているので、EQCは十分に速い。0-100km/hの加速は5.1秒。しかも、サスペンションは専用にチューニングしているので、ロールはするものの、乗り心地や静粛性はこのクラスでは最も優れている。

最新のアダプティブクルーズコントロール(ACC)やレーンキープアシスト(LKAS)が付いていることから、「半自動運転」が可能なEQCは運転しやすい。周囲の交通の流れに反応してEQCもそのまま停止し、再び動き出すときは無音・無振動だ。
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文=ピーター・ライオン

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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