オンライン教育の一番の特徴は、教育内容が可視化される点だ。見える化が進めば、授業内容の共有が可能になる。そのため教育機関同士の横の繋がりが強化され、さらに教育機関を取り巻く企業、ひいては社会との連携を期待できる。より広く、そして活発な教育が浸透することが見込まれる。
2007年のサイバー大学開学当時、韓国ではすでに27校ものオンライン大学が開学していたが、現在でも日本では文科省の認可を受け、全てのカリキュラムをオンラインで行う大学はごくわずかだ。
川原学長への取材もオンラインで行った。
これまで日本がオンライン教育に踏み切らなかった理由について、川原学長は「日本における大学設置基準等の法令を遵守した上で、授業のオンライン化を推進していくことが難しいからではないか」と言う。今回の新型ウイルス感染拡大で、この制限を超えて部分的な遠隔授業の活用が一時的に認められているものの、通常4年制大学におけるオンライン授業は60単位までのみ認められるようになっている。全オンライン大学の設置には厳しい審査が設けられているのだ。
また「対面授業のほかにオンライン授業を取り入れる教育効果を認識しつつも、コストと時間をかけて授業を一部でもオンライン化する必然性を強く感じられなかったのではないか。大学間のブランド向上の競争はあっても、学内の教育の質向上において、競争が少なかったように思う」と川原学長は語る。
不自由な状況でどれだけできるか
オンライン教育が普及することにより、「これまで以上に授業設計が大切になる」と川原学長は指摘する。従来の対面型の授業は、教室という密閉された空間で行われていたため、指導方法や授業内容については客観的な評価が困難であった。
しかしオンラインで教育を行えば、授業をより多くの人が閲覧できるようになり、授業の記録を残すこともできる。よって、よりフェアで、透明性の高い場で教育内容についても評価を受けるようになり、教育の質が問われるようになっていくのだ。
授業ツールの使用にも工夫が必要だ。これまで板書や配布物で授業を進めてきた教員には、ツールをデジタル化し、小さな画面でも見やすいような媒体にすることが求められる。だが、この緊急時にどうすれば良いのか。川原学長はこう助言する。
「新しい授業方法に慣れるための時間がない中では、板書を小さな画面でも読めるように写真に撮ってスライドとし、それに対して自分でカメラに向かって音声を収録するような方法でも良い。とにかく授業内容をデジタル化して配信することに注力すれば、授業として成立するようになると思う」
新型コロナウイルスの影響で教育界にも広がる波紋。川原学長は、この局面をオンライン教育に携わる立場からどのように捉えているのだろうか。
「サイバー大学は教員も学生たちも、不自由な中でいかに大学教育を授けられるか、そして受けたいか、ということを考えてやってきた。多くの教員は対面で授業を行うことにやりがいを見出していたり、学生はキャンパスに行くこと自体に楽しみを見出してる。しかし、この不自由な状況でどれだけできるのか、と考えるとオンラインでの教育は一つのソリューションとしてある。新しい教育のあり方やコミュニケーションの方法に人々が気づく、チャンスが生まれつつあるのではないか」
日本が「オンライン教育後進国」だと言われる所以には、教育の質の向上における競争の少なさが一因となっていることなど、新型コロナウイルスによる教育のオンライン化を端緒とし、日本の旧来の教育手法について見直すきっかけになるのではないだろうか。
教育のオンライン化を進めざるを得ない現状を、その真価を問う「見定め期間」とし、これまで手をつけていなかった新しい手法に向き合うためのチャンスとしたい。この状況に屈するのでなく、暗いトンネルを抜けた後の未来がより良いものとなるよう、新たな選択肢を適切に検討していきたい。