大学などでは授業のオンライン化に向けて動いているが、現場の混乱は大きいようだ。中には「履修する授業の受講方法もわからないまま新学期が始まった」という学生の声も聞かれ、学生、学校側双方の混乱の様子が分かる。
日本は「オンライン教育後進国」とも言われているが、2007年から全ての講義をオンラインで行っている大学がある。ソフトバンクグループが100%株主であるサイバー大学だ。株式会社立大学であり、日本初の全ての授業をオンデマンドで提供する文科省認可の教育機関である。
未来のことのように思われていた教育のオンライン化を、急ピッチで進めることが求められている。混乱をきたす教育現場への提言を、サイバー大学の川原洋学長に聞いた。
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サイバー大学は科目設計、授業コンテンツの制作、学生指導等、全ての教育活動をオンライン上で行うことができる「Cloud Campus」というシステムを、大学独自で開発運用している。定期試験を受験する際の本人確認システムや、オンライン上でゼミを開催する際に学生は発表コンテンツを指導教員とゼミ生に配信し、オンライン上でディスカッションを展開する機能なども整備されている。
全国の大学が学事日程の変更や遠隔授業の活用を求められる状況の中で、サイバー大学はオンラインでの授業展開を急ぐ全国の大学および短期大学に、「Cloud Campus」のシステムを2021年3月末まで無償で提供すると発表した。すでに20校ほどから利用の申し込みがあるという。
「Cloud Campus」をすでに利用して授業を行なっている通学制大学もあり、対面の授業と、うまくオンラインのシステムを組み合わせて指導が行えるようになっているという。今後さらに「Cloud Campus」を使用する教育機関が増えれば、オンライン授業を行う上でのノウハウを共有するフォーラムを開催することも検討している。
教育がより多様な選択肢をもつように
では、今後オンライン教育を実施する機関が増えると、社会全体としてはどのようなメリットが見込まれるのだろうか。
川原学長は「教育の広がりや産学連携が望めるのではないか」と予測する。
オンラインで授業を行うと、大学の垣根を越えることが可能だ。実際にある理工系大学では、専門科目以外の教養科目の充足を求め、サイバー大学が注力しているリベラルアーツ系科目に特別聴講生として学生を送り込んでいるという。また、このような大学間連携の取り組みにより、海外のオンライン大学との単位互換も実現している。在籍する学生にとっては、選択できる科目の幅が広がり、他大学の学生との交流も可能になる。
サイバー大学は企業との連携も行っており、企業からも客員教員として講師の派遣をしてもらい、オンライン授業を開講している。ソフトバンクやヤフーなどグループ内企業の専門職社員から最先端の技術を学んだり、大手監査法人や東京弁護士会に所属する専門家から実践的な講義を受けることができる。一方で企業は大学のオンライン講義を研修などに取り入れることもある。