ビジネス

2020.03.28

レゴにも勝った! 教材ヒットメーカーが勝ち続ける理由


一方、思いがけないヒントも得られる。

「“なぜプログラミング教材をつくらないのか?”としばしば聞かれていました。高度なプログラミング技術ではなく、小学生に電子玩具で遊ばせるような教育が欧米では早くから始まっていたのです」

当時、日本は08年の中学校の学習指導要領の改訂によって、技術家庭科で「プログラムによる計測と制御」の項目が盛り込まれたばかりのタイミング。市場で販売されていたプログラミング教材も価格が1万円程度と高く、ハンズオンには適していなかった。

藤原は、ここに勝機を見出した。すなわち、教師や子どもたちが簡単に扱えて、安価に利用できる教材には大きな市場がある。それも国内外に─。

アーテックはその後、「計測と制御」の項目で開発していた教材の改良を重ねた。新たにエンジニアを採用し、工業高校や情報科学系の教師とも連携。オープンソースのソフトウェアや制御基板を活用して、自由自在に組み合わせたブロックをプログラミングで制御する「アーテックロボ」を完成させた。

ハンズオン型で教えられるプログラミング教材は海外でも評判を呼び、現在、アーテックは約70カ国でビジネスを展開。モンゴルに加え、シンガポール、マレーシア、メキシコ、ウルグアイ、コンゴでも国家指定に採用されるまで成長した。

その先進的な動きは、世界のビッグ・カンパニーからも注目されるようになっている。ソニー・グローバルエデュケーションとは、電子玩具「KOOV(ク ーブ)」の事業を共同開発。米国IT企業大手ともプログラミング教材の共同研究を進めている。

そして間もなく、あるメーカーと共同開発で、子ども向けの学習専用端末を世に送り出す見込みだ。

ひとりに1台の端末を持たせてSTEM教育を促進しようという国の方針に対応するもの。ただ、多くのPCメーカーが参入を試み、撤退を重ねてきた難事 業でもある。

しかし、藤原には勝算がある。「無謀だ、という声もありますよ。でも、学習者向の端末で求められるのは、新しい機種をどんどん展開することではありません。現場の先生たちが対応できる範囲を想定して、必要な教育を最低限の金額で永続的に行えることが重要なんです。そして、それを支えてきたのが教材会社の強み。私たちは世界というフィールドに足をかけたばかりですが、この商品は世界で展開できる。海外で得た、きめ細やかなモノづくりへの評価が自信になっています」


藤原 悦◎1970年生まれ、兵庫県出身。龍谷大学文学部卒業後、93年4月、アーテック入社。教材事業部の営業統括責任者を経て、2013年7月より代表取締役社長。プログラミング教材「アーテックロボ」の開発を主導し



なぜ、藤原悦は、「無謀」に挑み続けられるのか。そのほか、グランプリを受賞したフィルム型ソーラーの川口スチール工業(佐賀県鳥栖市)や「COEDO(コエド)ビール」の協同商事(埼玉県川越市)など、危機をバネに進化を遂げたスモール・ジャイアンツたちの逆転のストーリーを一挙公開。フォーブス ジャパン2020年5月号は3月25日(水)発売!購入はこちらから。

文=間杉俊彦、写真=佐々木康

ForbesBrandVoice

人気記事