ビジネス

2020.03.24

DX化に勝機アリ──異色のギルド集団が描く、「日本の伝統工芸」復活のシナリオ

空の目のボードメンバー


伝統工芸にはブランド化、グループ化が必要不可欠


岡野が伝統工芸に携わるようになったのは、今から23年前。彼がまだ26歳のときだ。明治大学を卒業した後、新卒採用支援会社を設立した岡野だったが、ひょんなきっかけから家業である博多織・岡野の経営を引き継ぐことになる。

「家業を継ぐ予定はなかったのですが、本家が13年連続で赤字を計上するなど経営が全く上手くいっていなかった。それで本家から『博多織はビジネス的に儲からないから廃業しよう』という話が出ていたんです。一方、うちは分家で、父は職人でした。分家の人たちは『博多織は700年以上続く日本の伝統工芸であり、儲からなくても続けていかなければいけない』と考えていて。本家は経済軸、分家は文化軸できっぱり考え方が分かれていたんです。経済軸と文化軸を両立させるにはどうすればいいのか。

当時、自分は東京で経営をやっていて、なおかつ岡野家で職人たちの考えも聞ける立場にいた。経済軸と文化軸の両方が分かる特異な立ち位置にいたので、『これは自分にしかできないことだ』と思い、OKANOの5代目に就任しました」(岡野)

岡野が代表に就任以降、OKANOは着物のSPA(製造小売)に取り組み、黒字化に成功。六本木ヒルズに出店。現在は博多リバレイン、銀座シックスに店舗を構えている。

廃業寸前にあった家業を復活させた岡野は、日本の伝統工芸の再生に興味を持つようになる。年々、規模が縮小し、高齢化が進む伝統工芸の市場。そうした状況の中、伝統工芸の再生に必要なものは何か──岡野がヒントを得たのは欧州のラグジュアリーブランドだった。



「エルメスやルイ・ヴィトンといった世界的に成功しているラグジュアリーブランドの由来を調べてみると、自国の文化風土が発祥なんです。日本の伝統工芸も根本は同じですが、欧州のラグジュアリーブランドと何が違ったのか。前提にあるのが“内需の差”です。日本は戦後、内需が右肩上がりで拡大していったので、自国の文化を内需の中で完結できた。アウトバウンド、インバウンドを気にせずにマーケティングしていけば生き残れたんです。

一方、イタリアやフランスは戦後、人口が増えていないので日本とは真逆でアウトバウンド、インバウンドを意識したマーケティングをしなければ生き残れなかった。ここが大きな差で、欧州のラグジュアリーブランドは70年前から国外に目を向けていたからこそ、今の成功があると思っています」(岡野)

では、日本各地にある伝統工芸が、欧州のラグジュアリーブランドのようになるにはどうすべきなのか。岡野は「ブランド化」と「グループ化」が大事になると語る。

「欧州のラグジュアリーブランドは自国の文化や伝統、技術力を利用しながら、世界観や価値観をひとつのコンテンツとしてお金に変えていっている。このブランド化に対する考え方は日本の伝統工芸の文化とは全く違います。

また、欧州のラグジュアリーブランドはLVMHやリシュモンを筆頭にグループ化している。つまり経営と事業の棲み分けを行うことで、ものづくりの精度を上げている。

ここは日本の伝統文化と全く違う点だと思った。経営はホールディングスが行い、現場は最高の製品をつくることを追求する。これが伝統工芸の再生には大事で、ブランド化、グループ化をしなければ日本の伝統工芸は生き残れないだろう、と思っていました」(岡野)
次ページ > “デジタル化”に勝機を見いだす

文=新國翔大 写真=小田駿一

タグ:

連載

DX NOW

ForbesBrandVoice

人気記事