ケニア人のマルチクリエイター、サニー・ドラットは、クィア(セクシャル・マイノリティ)のアフリカ人という世界から見過ごされてきた存在を、美しいビジュアル表現へと昇華させることで、自らの仕事のフィールドを広げてきた。クリエイティブなキャリアは、スタイリストから始まったが、現在その領域はファッションに留まらない。
直近ではアフリカ大陸の55カ国すべてと、ディアスポラ(移住者)のすべてのスタイルを網羅するという、ファッション・インスタレーションにも挑戦。DIではプレゼンだけでなく、テキスタイルを使ったパフォーマンス・アートも披露した。
ケニア人のマルチクリエイター、サニー・ドラット(Sunny Dolat)
聴衆を惹きつけた日本人テクノロジスト
ARを使ったクイズ形式のインタラクティブな仕掛け「RISAR」で、温暖化と海面上昇の課題提起を行い、聴衆を惹きつけたのは「Takram」のクリエイティブ・テクノロジスト、牛込陽介。Takramはデザインとエンジニアリングの両方の領域をカバーするデザイン・イノベーション・ファームで、牛込はそのロンドン拠点のディレクターだ。
ほとんどのメンバーがエンジニアリングとデザインの領域に精通しているTakramでは、2つの領域を融合するのでなく、日本語と英語のように「言語をスイッチするような感覚」で課題解決にアプローチするのだと牛込は語る。デザインとエンジニアリングの間を振り子のように往き来し、両方の言語を扱う。
プレゼンの前半では、Takramが手がけた様々な「データとデザイン」のプロジェクトが紹介された。同社は、日本政府のビッグデータビジュアライゼーションシステム「RESAS -地域経済分析システム」のプロトタイピングも手がけ、よりよい政策立案にも貢献する。
デザインの力でデータが美しく、分かりやすく変換され、データと私たちの距離が縮まることで、私たちがただデータを理解するだけでなく、人間としての自らの能力を解き放つことができると牛込は言う。私たちのよりよい思考と行動のためには、データを頭で理解するだけでなく、感情的に吸収することも重要だ。
クイズ形式のインタラクティブな仕掛け「RISAR」。生活習慣に関する聴衆の回答に応じてAR画面内の海面が上下する仕組み。
課題解決に必要なエネルギー
DIのプレゼンテーションスタイルは幅広い。いわゆるスライドを使いながら進める説明型のプレゼンテーションだけでなく、語り、音楽、ダンス、映像を合わせたダイナミックな「ショー」を展開する登壇者も少なくなかった。
ショー・マジョーズィーのパフォーマンスの様子
文化であれサイエンスであれ、各領域における課題解決のプロであるDIの登壇者が繰り広げる「ショー」に、聴衆はスタンディングオベーションで呼応する。世界の課題解決には、事実とデータに基づいた論理性が重要であると同時に、繋がりや共感など、こうした感情的な要素から沸き起こるエネルギーも必要だ。
人種、セクシャリティ、ジェンダーといった分類に加え、キャリアや人生における選択肢において多様性と包括性が重視され、課題解決にも多様なアクターと価値観を無視することはできない時代。今回のDI参加を通じて、課題解決におけるクリエイティブな要素の重要性が、いま相対的に上がっているということを改めて感じた。
連載:旅から読み解く「グローバルビジネスの矛盾と闘争」
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