DIと同様に「世界を良くする」というモットーを掲げ、一般的にもよく知られているものとしては、世界経済会議(World Economic Forum、ダボス会議)がある。経済界や政界を中心とした世界のトップが毎年スイスに集まる会議だが、これに対しては、世界の1%、いわゆる“持てる者”のための場という批判がある。
ダボス会議は特異で極端な例だが、各界のリーダーが集まる会議というものは、その性質上、一定の排他性も持ち合わせることになる。所得の不平等をはかるジニ係数が最も高く、世界一貧富の格差が大きいという不名誉な状況にある南アフリカにおいては、DIの会議でさえ、その「不都合な真実」を感じさせる排他性から完全に逃れることは難しかったようだ。
登壇者が発信していた「アフリカの視点」
今回のDIで、筆者がとくに注目した登壇者を紹介しよう。
前述したように、今回、全般的にはアフリカという視点がそこまで際立っていた感じはなかったが、アフリカ系の多くの登壇者は、それぞれの「アフリカ」を提示していた。そこには、欧米発のフレームワークには収まりきらない問題提起や課題解決のアプローチが見え隠れする。
ガーナ人のアーティスト、イブラヒム・マハマは、ヴェネツィア・ビエンナーレやドイツのカッセルで催されるドクメンタなど、欧米の主要なアートフェアで数々のインスタレーションを仕掛けてきた実績を持つ。
農産物の運搬に使われるジュート袋や都市の廃材といった素材使って、建築物を覆うというのが彼の作品スタイルだ。アート作品としてのジュート袋は、グローバル経済の中でアフリカがコモディティ貿易に依存している現実を象徴している。
ガーナ人のアーティスト、イブラヒム・マハマ(Ibrahim Mahama)
現在は、出身地であるガーナ・タマレの郊外の土地を買い、使われなくなった飛行機や車両を持ち込み、「教室」として再活用、次世代に向けた教育と文化の拠点を設立中である。アートで得た収入をすべて再投資し、よりオープンで公共性の高い創造と教育の場づくりに力を入れている。同時に、都市に人や資源を集中させない仕組みをつくることで、都市化の課題に一石を投じる試みもしているということだ。
南アフリカ人の若手アーティスト、ショー・マジョーズィーは、力強い歌と踊りのパフォーマンスと、自らのルーツであるツォンガ民族の伝統的なスカート、シベラニ(Xibelani)の歴史を紐解くプロジェクトに関するプレゼンテーションを展開した。
南アフリカ人の若手アーティスト、ショー・マジョーズィー(Sho Madjozi)。スライド内の写真は伝統的なシベラニの例
「変化していく文化を博物館化してはいけない」というのが彼女の考えで、自らの民族の伝統衣装をコンテンポラリーでクールなファッションとして発信している。