年末恒例の東京フィルハーモニー交響楽団(以下、東京フィル)の「第九」特別演奏会。2014年より本公演の協賛を続けているフォーブス ジャパンのライフスタイル編集部執行役員の佐藤英樹が石丸恭一楽団長に、経済人と芸術との関係性への想いを聞いた。
国ごとに違う芸術支援の背景
佐藤英樹(以下、佐藤):ビジネスパーソンの皆さんに経済だけでなく、文化との接点を広げたいという想いから、フォーブスでは文化事業として東京フィルの特別演奏会をサポートしています。東京フィルは2014年には世界ツアーにも出られて活発に活動されていますね。
石丸恭一(以下、石丸):グローバル化が進むなか、日本文化を見直して発信しようという動きがますます高まっています。日本文化に根付いた私たちのクラシック音楽を海外で打ち出したいという想いから、アジア・欧米6カ国をめぐる世界ツアーを行いました。創立100周年でようやくの試みとなった理由は、芸術への支援体制が国ごとに異なることが大きいです。
石丸恭一氏
佐藤:オーケストラを取り巻く環境も日本と海外とで違いがありますか?
石丸:欧米にはナショナルオーケストラがありますが、日本にはないんです。その背景として、封建制度があった欧州は、税金で芸術を支援することに対する国民の同意は得られやすく、西洋音楽と宗教は結びついた価値観として存在しています。また一方で、個人主義のアメリカは企業や個人からの寄付が集まりやすいということがあります。土台なく西洋化が進んでしまった日本はそのどちらでもないんですね。
佐藤:そのなかでも東京フィルは、多くの企業と良好な関係を築いてこられた印象があります。ソニーの盛田昭夫さんから始まり、大賀典雄さん、また現在は楽天の三木谷浩史さんが理事長になられていますが、三木谷さんも海外では東京フィルの名刺を出すと尊敬と共感が得られやすいと話されていました。
石丸:世界のビジネス界では、クラシックなど西洋文化への造詣の深さや芸術への尊敬が強くあります。盛田さんもクラシックで世界との壁が取れるような経験をアメリカのビジネス界でされてから、その後さらに強く東京フィルの経営に強い関心を寄せていました。日本は国からの大きな支援がない分、独立した運営をせざるをえなかったところがあります。ですが、社会の変革が進むなかで政治や経済的な環境に大きく左右されない日本のやり方が、実はこれからの時代、主流になるのではと思っています。
佐藤:持続可能な状態をうまく作れるのが、日本企業らしさでもありますよね。東京フィルの取り組み方は長く楽団を続けるうえで無理のないかたちを築けていたんですね。