2015年の研究で、約6500年前に北米沿岸で採られたタラに含まれていた水銀の量は、現在の上限値の20倍以上だったことが判明していた。この件をさらに深く調べるため、考古学者たちは沿岸に住んでいた人類の食生活について研究した。
研究対象となった場所はノルウェー北部にある6300~3800年前の8つの遺跡で、ゴミ捨て場で発見されたタイセイヨウダラやタテゴトアザラシなどの骨が分析された
その結果、タラの骨からは安全とされる上限値の20倍以上のカドミウムと、最大4倍の鉛が含まれていた。カドミウムは内蔵疾患を引き起こし、鉛は神経に影響を及ぼす。アザラシの骨には推奨値の最大15倍のカドミウムと、最大4倍の鉛、そして多くの水銀が含まれていた。
水銀やカドミウム、鉛は、他の有害金属と同様に、岩や水の中に自然に含まれている。およそ2万年前の最終氷期極大期には海面が300メートル以上低く、大陸棚地域の多くが露出していたため、岩石が風化したり侵食されたりして重金属が土壌に流出した。
その後の1万4000年から6000年前の最終氷河期の終わりごろ、海面が再び上昇し、それまで露出していた場所が浸水し、重金属は海水に溶け込んでいった。古代の人々は、海に流れ込んだ重金属を、魚を経由して摂取していたと考えられる。
しかし、それが人々の健康にどのような影響を与えたかは分かっていない。ゴミ捨て場では魚やアザラシの骨が多く見つかったが、当時の狩猟採集民は多様な食べ物を摂取しており、それが重金属の有害性の中和につながった可能性もある。
また、当時の人間の寿命が30~40歳だったため、重金属が体に影響を及ぼす前に死んでいたのかもしれない。研究者らは次のステップとして、当時の人骨の化学成分を分析し、骨に含まれる有害物質の量と、魚介類に含まれていた有害金属の量に相関関係があるかどうかを分析しようとしている。