3:モノが均一に混ざる
微小重力を物理的に表現すると「重さがない」ということに尽きる。重さがないことでなにが起こるのか。わかりやすい例でいうならば、地上では時間が経つと、重さの違いで混ぜても分離してしまうドレッシングも、微小重力下では一度混ぜれば分離することがない。このような環境によって、均一な重さではない素材を合わせて作る高品質な半導体結晶生成技術の実験が可能になる。「地上では素材同士の重さの違いにより、完全に均一な半導体を作ることは難しい。そのため昔は“宇宙に工場を作れば大体のものは作ることができる”。そんな風に言われていましたが、まさに微小重力下にあるISSではそれが可能になるわけです」
「きぼう」での半導体実験が、コンピューター、計算機の新しい部品の開発に繋がることが期待され、現在、民間企業による実験も広がっている。実際に、半導体結晶実験の蓄積により半導体の記憶効率が上がり、携帯電話メモリの容量アップを可能にする高性能な材料が生まれている
4:容器なしで物質が浮遊する
微小重力下では、液体を容器に入れずに浮かせることができる。この特徴を活かした「きぼう」ならではの実験として、静電浮遊炉(ELF)での物質実験がある。ELFとは下敷きで髪の毛をこすると浮くのと同じ原理で、電極間に電力をかけて静電気力を蓄える装置を利用する。微小重力によって浮遊する物質の位置を静電力で制御しながら、電子の反発力で浮遊させた物質にレーザーを照射し溶解させ、その特性を測定するのだ。
「地上で2000℃を越える融点を持つ合金を溶かす場合、通常は物質を入れた容器も溶け出し、どうしても不純物が生じてしまいます。一方ELFは容器の影響を受けないため、物質ならではの性質の測定や合成が可能になります」
また、物質を浮かせる手段のひとつにリニアモーターカーのように磁気の力、電磁力もあるが、ELFのよいところは帯電しにくく、浮かせにくいセラミックスやガラスのような材料も浮かすことができること。「新しいガラスやセラミックスの研究にも使えるため、この浮遊炉で今まで地球上で見られなかったガラス製品、丈夫なプラスチックなどの工業製品の開発や研究と、応用範囲の広い実験が可能になり、民間からの関心が寄せられています」
5:液体は熱しても対流によって乱れない
重力下では水のように均一に見える物質でも、熱が加わると比重の違いが生まれ、対流が起こる。そして物質は対流や沈殿の影響を受けると、材料の組成の規則性が乱され、均質な物質を作ることができない。一方で重さのない微小重力下では、軽い、重いの区別がないため、液体は熱しても対流によって乱れることがなく、結果的に高品質なタンパク質の結晶化といった、良質な材料の生成も可能になる。
「人の体は100万種類以上のタンパク質でできています。高品質なタンパク質の結晶は、病気の原因菌より先に鍵をかけて病気を未然に防いだり、新薬の設計に繋がることが期待されています」
すでに「きぼう」では筋ジストロフィーやがん、歯周病などの治療薬に関連するタンパク質の結晶化実験を実施。得られた構造情報は創薬研究に貢献している。
また、ものが燃えるプロセスの厳密な観察も可能で、効率の良いエンジン開発につながるような研究も行われている。
* 白川正輝|有人宇宙技術部門 きぼう利用センター きぼう利用企画グループ長|香川県出身。きぼう利用戦略策定、利用テーマの公募・選定・評価、きぼう利用に関わるプロモーション、国際調整など、きぼう利用の成果創出・拡大のための企画・調整業務のとりまとめに従事。
JAXA’s N0.79より転載。
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