経済・社会

2020.02.26 08:00

「75年前の日本の亡霊」が中国の顔をしてオーストラリアに現れる

dikobraziy/ Shutterstock.com



戦略政策研究所(ASPI)副所長 マイケル・シューブリッジ
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シューブリッジ氏は「同じ事態が、ソロモン諸島のツラギ島で起きている。かつて、日本が使った島のひとつだ。日本人は、中国人によるコピーを誇りに思って良いだろう」とジョークを飛ばした。第二次大戦当時、日米両軍による争奪戦が繰り広げられたツラギ島は昨年、中国企業が島全体の賃貸借契約を結んだというニュースが話題を呼んだ。

それくらい、中国の南太平洋への進出は最近、加速している。日本政府関係者の1人は中国の進出に対する豪州の懸念について「10年くらい前は、東シナ海や南シナ海が騒がしいが、豪州からは遠く離れていると安心していたのではないか。あれよあれよと中国が間近に迫ってきたため、慌てているように見える」と語る。

そして、日本の中国専門家によれば、数年前から中国の論文のなかで「第3列島線」という言葉が登場し始めている。九州南端からフィリピン西岸を通り南シナ海を囲むように伸びる「第1列島線」、小笠原諸島からグアム東岸を通りパプアニューギニアにまで伸びる「第2列島線」よりも、さらに東に伸びた線だ。「第3列島線」はハワイから南太平洋を縦断してニュージーランドに伸びる。「これが、中国が太平洋で米国とぶつかったときの防衛ラインなのではないか」という疑念が国際社会で広がりつつある。
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シューブリッジ氏は豪州や南太平洋の地政学的な意味について「第二次世界大戦で、なぜ日本が南太平洋にこれほど多くの軍事資源を投入したのか。それは、ここが戦略的に重要な地域だからだ」と語る。「米国と豪州をつなぐ意味もある。太平洋で力を発揮したい場合は、戦力をそこから投射するのに適している場所だ。第2次世界大戦で日本はそのように行動した」

日本軍は第二次世界大戦当時の1942年、中国企業が港湾を租借した北部・ダーウィンを爆撃した。同年には特殊潜航艇がシドニー港を奇襲したこともある。安倍晋三首相は2018年11月、ダーウィンを訪れ、モリソン豪首相とともに戦没者慰霊碑に献花した。モリソン氏はその後、何度もこのときの様子を「首相になって忘れられない瞬間だった」と語っている。豪州にとってそれだけ深い傷を残す攻撃だったのだろう。

そして、シューブリッジ氏が指摘するのが、当時の日本と中国の国力の差だ。米国が自らと等しい経済力を持つ国と争うのは史上初めてのことだという。「中国の富と規模は、過去の日本よりもはるかに大きい。旧ソ連も強い経済力を持っていたが、成長や開発がなかった」

こうしたなか、豪州の中国を巡る世論は最近、大きく変化している。次回は、この現象について報告したい。

文=牧野愛博

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