この国の障害は #障害者という言葉 だ。ヘラルボニーが異例の意見広告に込めた痛烈なユーモア

ヘラルボニーの戦略法務小野田峻、代表松田崇弥、ストラテジックプランナー西野彩紀(左から順)


「大胆に、チャーミングに」


この意見広告のキャンペーンを考える際に、最も心がけたことは「大胆に、チャーミングに」というヘラルボニーらしさだ。

安倍発言にも通じる「シュレッダー」を想起させる表現として、イギリスの覆面アーティスト・バンクシーの作品「風船と少女」からインスピレーションを受けた。オークションで約1億5000万円の落札が決まった直後に、フレームに仕掛けられていたシュレッダーで絵画の下半分が細断された、あの作品だ。

ヘラルボニー・松田崇弥
ヘラルボニー代表の松田崇弥

SNS上で展開する「#障害者という言葉」にはどんな思いを込めたのだろうか。

松田代表は「日本国内では障害の『害』は社会側に障害物があるのだ、という当事者団体の考え方もありますし、それぞれの考えを否定する意図はありません」と障害者という言葉について多様な価値観があることを認めている。

その上でこう指摘する。「障害者という言葉で一括りをすることで、欠落者であるイメージをもたらす弊害もあると思います。海外だと、障害を持った子供などを “children with special needs” などと呼ぶ動きもあります」

霞が関・弁護士会館前に掲示する狙いは


コピーライターやアートディレクターのポジションには、ヘラルボニーの社員では外部メンバーも加わり、視点の多様性も尊重された。さらに、意見広告の監修として、ヘラルボニーの戦略法務を担う、弁護士の小野田峻も積極的に関わっている。

小野田は、いわゆる「市場の失敗」と呼ばれる社会課題領域に常識に捉われない手法で挑むソーシャル・スタートアップの支援を専門とする弁護士だ。今回のヘラルボニーのチームミーティングを進めていく中では、多様なメンバーから提供される様々な視点や意見を時に整理し、時に収束させる役割を担いつつ、企業法務の専門家としてリスクマネジメントや企業の社会的責任という観点からの意見も出してきた。また、小野田の尽力もあり、意見広告の掲示場所は、霞が関の弁護士会館の前の掲示板に。2月21日から掲げられている。

2月25日午前11時~午後1時には、霞が関の弁護士会館講堂で「#障害者という言葉」と題したトークセッションが開かれる。セッションでは、代表の松田や小野田のほか、ラッパーのGOMESSや、障害者雇用サービスを民間で初めて手掛けたゼネラルパートナーズ代表の進藤均も登壇する。

ヘラルボニー・インタビュー
ヘラルボニーの戦略法務を担う、弁護士の小野田峻(左)

小野田は「ヘラルボニーには本当に素晴らしい才能が集まっていました。そんな彼らが意見広告を最も効果的に発信できる場所はどこか、できれば永田町か霞が関が良いのではないかと必死に考えを巡らせているとき、私の頭に弁護士会館の講堂と掲示板の存在が浮かびました」と振り返る。

霞が関の弁護士会館は、東京の3つの弁護士会と日本弁護士連合会という4つの弁護士の団体が集まった場所で、その2階講堂は、会員の利用のみならず、市民の表現の自由に向けて開かれた場所としてもその活用が想定されているという。

だが、小野田は「少なくとも昨今は、市民のみなさんやメディアの注目を集めるようなイベントにはなかなか活用されてこなかった。法曹三者(弁護士・検察官・裁判官)や官僚が行き交う霞が関という場所を考えても、それはあまりにもったいないなと。弁護士会の管轄の場所だからこそ、市民が表現やアートを通じて社会に対して問題提起をすることの社会的意義を打ち出せるのではないかと考えました」と意図を語る。

霞が関・弁護士会館前のヘラルボニー意見広告
霞が関の弁護士会館前に掲示された「#障害者という言葉」の意見広告(ヘラルボニー提供、撮影:鈴木渉)
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文=督あかり 写真=平山尚人

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