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2020.02.27 18:00

贅沢すぎる。プロデューサー立川直樹が箱根で手がける、音楽と温泉旅館の新境地


静かに流れ始めたのはブラジルのアーティスト、カエターノ・ヴェローゾの「So In Love」。目の前で囁くように歌っているようで、息遣いまで生々しい。

温泉旅館の音楽といえば、有線や専用の音源で、和を感じさせるような琴っぽい音色が微かに流れている。そんなイメージを抱く人が多いのではないだろうか。そもそも音楽の印象は薄いかもしれない。

音楽評論家、エッセイストとしても独自の視点で活躍し幅広い世代から人気を集める立川氏には、10年以上前からフラストレーションがあったのだという。施設や料理人、食材、ワインについてはソムリエも入れてこだわり、お金をかけるのに、こと音楽については選曲も音質もそれほど力を入れていないところが多い、と。

立川氏にとってもうひとつのきっかけは、車を買い換えたことだった。最近購入した新車のオーディオはスマホアプリのストリーミングをつなげる仕様になっていて、CDプレーヤー自体が装備されていなかった。「レコードやCDで音楽を聴くという行為自体がなくなってしまうかもしれない」と思ったのだという。

良き出会いにも恵まれた。長野県諏訪市、諏訪湖を望む上諏訪温泉の旅館「浜の湯」で10年ほど前、カラオケスペースの一つを改装したロックバー「桃源郷(シャングリラ)」をプロデュースしたことがあった。アナログレコード1000枚を揃え、コアなロックファンから人気を得た。東京・西麻布のロックバー「P.B」マスターの福田泰彦氏と作家の森永博志氏と3人で定期的にDJとして立った。

その「浜の湯」の副社長だった松坂雄一氏と話しているうちに、立川氏が数年前から構想していた「音楽旅館」のプロジェクトに賛同してくれた。そして松坂氏が取締役総支配人を務める「強羅花扇」を「ONGAKU RYOKAN」の舞台に決め、準備を進めてきた。

ミスティックな箱根、テクニクスのオーディオで浸る


「箱根って東京の奥座敷みたいな感じで、山を登っていくうちに一気に木々が深くなっていってミスティックな雰囲気になる。日常を忘れて音楽に浸るにはすごくいい土地だと思う」

構想にぴったりハマるハードとの出会いもあった。金沢工業大学ポピュラー・ミュージック・コレクション(PMC)などが主催する「世界を変えたレコード展」を立川氏が監修した際、「テクニクス」と知り合った。

立川直樹 テクニクス

「最高の音楽が聴ける温泉旅館をプロデュースしたい。そこで僕はテクニクスに惚れ込んだ。ビリー・ホリデイが目の前で歌い、バックにバンドがいるような、すごく再現性の高いオーディオなんです」

立川氏のコンセプトに共感し、テクニクスはオーディオシステムを提供することにした。ラウンジだけでなく部屋にも良質なスピーカーを備え、宿泊客が自由に館内のCDを聴くことができるようにする。気に入った音源は購入もできるようにするという。
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文=林亜季、写真=小田駿一

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