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2020.02.24 12:30

通訳は格闘技だ。高度なスキルを操る言葉のプロフェッショナルたち

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通訳のコツ?「リテンション」という基礎スキルの習得とは


通訳者の脳内はいったいどうなっているのか。前出の林は言う。
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「リテンションですね」

サイマルインターナショナル 通訳事業部ジェネラルマネージャー林聖子の写真
サイマル・インターナショナル 通訳事業部ジェネラルマネージャー林聖子

リテンション?留める?通訳者の具体的な変換作業は想像もつかない。
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「そもそも通訳は時間の制約が厳しい。人物のそばに付いてパラグラフやセンテンスを訳す“逐次通訳”の場合では、1分の日本語のあと、相手に英語で返すまで遅くても1分30秒に収める、そんな短時間の作業を行うためには、記憶して(リテンション)理解して訳出しすることが重要です」

キーワードとなる動詞、誰か、という主語などをフックに、訳が頭の中で組み立てられるのかと想像していたが、それは全く素人の発想だった。同席した佐藤公香もこう説明してくれる。

「例えば、“I have an apple.”という言葉を聞いて、そのまま“I have an apple.”と聞いたことをそのまま繰り返す練習をリテンション(記憶)とリプロダクション(再生)と言います。短期記憶を鍛える基礎訓練です」

サイマルインターナショナル通訳事業部 マネージャー 佐藤公香の写真
サイマル・インターナショナル通訳事業部 マネージャー 佐藤公香

相手が話している言葉を頭にリテンションしながらその内容を繰り返す訓練だ。そのスキルがなく動詞や主語を待っていると誤訳やそもそも意とする話にならないのだと言う。

「通訳というのは、それがプレゼンテーションの通訳ならプレゼンターでもあります。まず話したことを“丸ごと”コンテンツとして理解し、意味を英語に置き換え、コトバにする。せめて喋っていることを記憶できなかったら頭の中でリアルタイムに英語に置き換えられないじゃないですか」

リアルタイム。。。すごい。

「通訳者は話をサマライズするのが得意な人が多い印象です。私たちが、通訳者とやり取りする際、聞き返しや確認をすることが非常に少ないのですが、それは仕事で日々話している内容を記憶し、まとめることを繰り返しているから、必然的にこういった能力が身についているのではないかと思います。英語的文法で『私は飲みました何を』と日本語訳にしてしまわないように、伝わる言葉にできるようになるには、経験からくる予測変換能力が必要です。その能力を鍛えるには、話者の思想、発言、資料に目を通しておくというような通訳者の事前の勉強が最も重要になってくるのです」

圧倒的な勉強量。それが普通。


サイマル・インターナショナルは冒頭に紹介した通訳の第一人者、村松らによって設立されて以来、その信頼から官庁系の受注が多い。また、医薬学系業界からは10年以上右肩上がりで案件があり、金融もフィンテックを中心に未だ堅調で、IT・通信業界も多数の案件があるという。

「業界の横断が昨今の特徴ですね」(林聖子)の言葉通り、医薬系でも専門の内容だけでなく、たとえば製薬会社に投資するための会議であれば、医学、薬学の知識だけではなく、金融の言葉、知識が必要だ。IT業界も日進月歩で、対象となる業界ももはや専門企業だけではないだろう。

代表の林純一は、通訳=勉強だという。業界横断、日進月歩、新語とその由来、基礎的知識を得るだけでも大変だが、加えて、登壇者や、専門家につく場合にはその人物の過去の発言や著書などにも目を通す。

「実際にあったのですが、仏の哲学者のインタビューを和訳した時、著書からのある引用句があり、その対訳としての英語はあったのですが、日本語では無かった。調べないと伝わらない、というようなケースも多いのです」(林純一)

案件の背景、周辺知識まで含めていかに事前に網羅し勉強しているかで通訳精度は大きく違うのだ。2時間の通訳の仕事に3倍から5倍の準備をするのは普通だと言う。
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文=坂元耕二 写真=西川節子

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