ポスト・ネット時代、Z世代にプライバシーはない?

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Z世代 ミレニアル
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生まれたときからネットが前提でSNSが空気のようにある彼らに、プライバシーという概念は希薄で、高校生が位置情報や個人的な書き込みや写真を平気で公開しており、それが犯罪につながるのではないかと問題になっている。

彼らにとってプライバシーは守るべき個人の秘密というより、公開することでより便利なサービスが受けられ、おまけにSNSで自分を晒すことで世界中から支持されたりビジネスもできたりする便利なツールなのだ。日本の子どもがなりたい職業のトップはYouTuberと聞くと、時代が変わってきたと感じる。

ネット時代が始まった頃には、個人の情報がアクセスしやすくなり、新しいマーケティング手法として注目された。それまでは個人の情報を入手するのに一件当たり10万円規模のコストがかかるとされてきたが、いまではフェイスブックやアマゾンに個人が喜んでタダで情報を提供している。そしてビッグ・データをAIが解析することで、より便利で個人の嗜好に合ったきめ細かいサービスが行えるようになっている。

ベビー・ブーマー世代には、プライバシーはもっと聖なる権利で、権力から監視されるべきではなくなるべく隠ぺいするべきもので、アメリカではネット時代のプライバシーを守るための団体運動も盛んになった。しかし人々は結局、プライバシーを晒すほうが得であればそちらに流れていく。

GDPRが個人情報保護を訴える一方で、個人が勝手にGAFAに情報を利用されないよう、個人情報を自らコントロールできるようMyDataや情報銀行のような中間的な機関を作り、それらを通して個人情報を限定的に公開して利益を得る方法を模索するような動きもある。一方的に情報を取られるなら、自らの情報をガードした上で、GAFAなどの大企業の得ている利益の一部を還元してもらおうという積極的な発想だ。

これからの時代には、AIを活用して、個人情報や生活情報を自分の鏡像のように自動的に整理して、ネット上の代理人としてのペルソナとして定着させようとする、「パーソナル・デジタルツイン」を構築しようとする動きもある。こういうフィルターがかかることで、個人情報を直接開示することなく、ネット上の人格と実生活を切り離すことも可能だ。

そもそも情報社会の情報とは、個々のプライバシーとしての差異があることで成り立つのであって、これを隠したり平均化したりするだけでは意味がない。世界中の遺伝子情報などを共有すれば医学の進歩に役立ち、人類の健康の増進に役立つように、オープン化することで全員の利益にもなる方法もあるのだ。

ただ問題は、権力機関などが一方的に全員の情報を握って陰から支配する道具にしてしまう、プライバシー情報保有の非対称性だ。全員がお互いの情報を同程度に知ることのできる、プライバシーの対称性を確保し、権力側のプライバシーもオープンにできるのなら、個人情報をより正しく扱うことができるのではないかと、ケヴィン・ケリーは論じている。

21世紀のデジタル社会では、いろいろのイノベーションが起きるのと同時に、それまでの時代には考えられなかったような変化も起きるだろう。2000年に消えると言われたモノのように、プライバシーに始まり、愛や家族、結婚といった人生の最も基本的な要素と思われていたものさえ影響を受けないとは言い切れない。

ただ人は自分の生まれた世代の初恋症候群からそう簡単には抜けられないものだ。Z世代の考えるプライバシーなき世界に、どれだけついていけるのか不安になる。

文=服部 桂

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