これは、スプリントとの合併に対する異議申し立てとして、最近になってニューヨーク、マンハッタンにある連邦裁判所に提出された内部資料で明らかになったものだ。この資料によると、Tモバイル株式の過半数を保有する親会社、ドイツテレコム(Deutsche Telekom)の経営幹部は2015年の時点で、ケーブル会社との合併であれば規制上の障壁にぶつかる可能性は低いうえに、コストおよびネットワークについてシナジー効果が望めると考えていたという。
だが、コムキャストの合併に際して真の懸念になるのは、節約志向の低所得層がどう動くかという点になりそうだ。現状では、ケーブルテレビの契約をやめてインターネット経由の動画視聴に切り替える、いわゆる「コード・カッティング」が広がり、携帯電話市場も縮小を続けている。
合併の背景にある状況:
アメリカにおけるブロードバンドサービス利用料は、無線・有線を問わず、先進国では最も高いのが現状だ。また、カルチャーバンクスが指摘しているように、競争が激しくない環境であるため値下げは望めない。
一方、アフリカ系アメリカ人世帯の年収の中央値(メジアン)は、2016年の時点で3万9000ドル(約429万円)強にとどまっている。そして、Tモバイルがターゲットとしている年収7万5000ドル(約826万円)未満の顧客層には黒人が多い。ニールセン(Nielsen)のデジタル・メディア担当バイスプレジデント、ジェリー・ロカ(Jerry Rocha)によれば、Tモバイルユーザーのうち黒人が占める割合は14%に達するという。
Tモバイルとスプリントの合併が実施された場合、ユーザーは、利用料金の値上げや、選択可能な料金メニューの削減に直面するおそれがある。さらに、合併後の会社がコムキャストのようなケーブル会社と手を結んだ場合も、同様の事態が起きるだろう。
Tモバイルの加入者数は、2015年の時点で5500万人だったが、2019年の第3四半期末では約8400万人と、着実に顧客基盤を拡大してきた。この間に同社の市場価値も膨らみ、今では1100億ドル(約12兆1105億円)以上に達している。