複雑さを増すケーブル業界:
現在のケーブル業界が、Tモバイルのトップが合併を検討していたと伝えられる2015年とは様変わりしている点は指摘しておくべきだろう。当時の社内文書では、合併候補としてコムキャスト、チャーター・コミュニケーションズ(Charter Communications)、ブライト・ハウス・ネットワークス(Bright House Networks)、タイム・ワーナー・ケーブル(Time Warner Cable)の4社を挙げていた。だが、その後業界の状況は大きく変化し、この候補はもはや現状に即していない。というのも、2016年にチャーターがブライト・ハウスとタイム・ワーナー・ケーブルを買収し、今ではスペクトラム(Spectrum)という新たなブランド名でサービスを行っているからだ。
コムキャストも、エクスフィニティ・モバイル(Xfinity Mobile)というブランドで、モバイル通信事業に再び参入した。実際、ケーブルテレビ業界では、ほとんどの企業がモバイル通信市場に進出している。コムキャストのようなケーブルテレビ会社は、仮想移動体通信事業者(MVMO)としてサービスを提供している。つまり、自ら通信ネットワークを保有・運営するわけではない、モバイル通信サービスの再販業者だ。
AT&T、ベライゾン・コミュニケーションズ(Verizon Communications)、Tモバイル、スプリントの4社はいずれも、全米規模の自前のモバイル通信ネットワーク・インフラを所有し、余剰分の回線を他社に販売している。コムキャストのエクスフィニティ・モバイルと、チャーターのスペクトラム・モバイルは、いずれもベライゾンのネットワークで運営されている。一方、アルティスUSA(Altice USA)のアルティス・モバイル(Altice Mobile)は、スプリントとAT&Tを採用している。
というわけで、コムキャストが本当にTモバイルとスプリントを買収した場合、同社は、スペクトラム・モバイルとアルティス・モバイルに対して通信サービスを提供する側に回る可能性がある。一方、Tモバイルは、自らの得意分野でケーブル会社に対抗すべく、家庭向け無線ブロードバンドやテレビ番組のIP放送といったサービスを提供している。
難航するスプリントとの合併手続き:
Tモバイルとスプリントの合併が完了すれば、1億2700万人の顧客を抱える一大企業が生まれるとともに、ケーブル会社との合併にも一歩近づくことになる。合併については現時点ですでに、対米外国投資委員会、米司法省、米国土安全保障省、国防総省で構成される「チーム・テレコム」からの承認は得られている。しかしこの合併をめぐり、両社は13州の司法長官から訴訟を起こされており、これが解決しない限り、合併は正式に完了しない。
加えて、ウォール街の期待感もいまだに薄い。この合併に関するスプレッド(買収提示額と実際の株価の差)が現在、2018年の計画発表以降で最大に達していることからして、株式市場はTモバイルによるスプリント買収の実現性に関して、あまり楽観的ではないようだ。