国民皆保険制度は日本が誇る財産だ。ところが、このまま何もしなければ、破綻するのは時間の問題だ。
日本の国民皆保険制度の特徴は、有効とされている治療は原則としてすべてカバーされていることだ。年齢や収入により、1~3割の自己負担は存在するが、高額療養費制度のため、負担には上限がある。この制度のお陰で、医者も患者も医療費のことをあまり気にせず「ベストの医療」を追求できてきたのだ。
私は血液内科を専門としてきたが、知人のアメリカ人医師は「お金のことを考えず、治癒の可能性が低い患者にも骨髄移植を提供できるのは、日本くらいだ。日本の医療は素晴らしい」と言う。
米国を除く世界の先進国のほとんどは、国民皆保険制度を有している。ところが、日本のような運用をしている国は珍しい。この状況を、知人の厚労官僚は「受給者は受けたいだけ医療を受けられ、医療サービス提供者へも出来高払い。全員で保険料・税金と国の財源に群がっている」と分析する。
なぜ、こんなことが可能だったのかと言えば、それは、かつて日本が若くて、豊かな国だったからだ。
いまの日本は世界最高の高齢化率
日本で国民皆保険制度が実現したのは、1961年だ。当時の高齢化率(65歳以上の人口の割合を示す高齢化率)は5.8%だった。国民皆保険制度は、高齢世代の医療費を現役世代が負担する賦課方式だ。当時は現役世代17人で1人の高齢者の医療費を負担していた。これなら大きな負担にはならない。
また、この制度が議論されていた1950年代に問題となっていたのは、結核などの感染症だ。いまとなっては想像もつかないが、1950年までは死因のトップは結核だった。周囲に拡散させないためにも、皆でお金を出し合い、入院してもらって治療するという制度は合理的だった。
ところが、2018年の高齢化率は28.1%で世界最高だ。2035年には35%を超えると予想されている。本来、保険システムの維持は給付とバランスで決まる。社会が高齢化すれば医療需要は増す。給付レベルを下げるか、負担を増やすしかない。