現代の「神話」としてのスター・ウォーズを読み解く

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指輪物語に見る神話的世界

歴史を振り返ってみれば、ギリシア神話に象徴されるように、いろいろな文明や文化は、その国や集団の物語を共通の世界観として持っていた。それらのうち最大のものは、世界で最も読まれたとされるキリスト教の聖書であり、まさに西欧文明のバックボーンに潜む宇宙背景照射のような存在だったが、それに影響された、もしくは下敷きとした物語がいろいろな時代や地域で作られ語り継がれてきた。

戦後のコンピューター開発が始まった時代にも、その時の気分を代弁するような物語がいくつかヒットしている。世界的ベストセラーである聖書や毛沢東語録に次いで読まれた『指輪物語』や『ナルニア国物語』も、まさにスター・ウォーズに先立つ物語だった。

特に指輪物語は第二次世界大戦中に書かれて1950年代に出版され、ビート世代から終戦直後のベビー・ブーマーまでの世代に広く読まれ、その後に「ロード・オブ・ザ・リング」として映画化され、ハリー・ポッターにも大きな影響を与えたと言われる。

作者のJ・R・R・トールキンは、言語学や神話に興味を持ち、舞台となる「中つ国」(なかつくに)の神話的世界に暮らすホビットを始めとした多種族が活躍する世界を、聖書のような長編叙事詩的な手法で描き、その国で話される言語や文字、歴史などを詳細に創り上げた。

特に架空の言語エルフ語やホビット語を創作することに意欲を燃やし、古語を参考に何とも不思議な響きの言葉が使われる一大サガを詳細に記述していったが、それは現在からみると、まさに巨大なアドベンチャーゲームのプログラミングそのものの作業だった。

この作品は1960年代には欧米で「もっとも偉大な本」という評判を得てちょっとした世界的ブームが起き、ファンタジー文学を大きく変えたが、特にその影響を顕著に受けたのは、当時はまだ「ハッカー」という呼び名がなかった、初期のコンピューター(電子計算機)を扱う若者たちだった。

彼らはプログラムや研究室などの名前に指輪物語に出てくる人名や地名を付け、コンピューターの生み出すソフトウェアの作り出す架空の世界の中を探索することを、この物語の世界を旅することに喩えていた。最近のハッカー事件でも、ハッカーが秘密の情報を壮大なネットの中で見つけ出す話によく、指輪物語の話が引用される。そしてこの話は実際にプログラムに書き換えられ、その後多くのRPGが作られるようになる。

またハッカーたちが心の糧にしていたのはSF小説で、ニューウェーブと呼ばれたバラードやオールディスやディックの作品が評判になり、1968年にはクラークの小説を元にした「2001年宇宙の旅」が、21世紀という未来を映像化した。

そして、それに先立つ1966年には、テレビで西部劇の宇宙版ともいえる「スタートレック」が始まったが、この壮大なスペース・オペラに登場した悪役クリンゴンの言葉は、エルフ語のような詳細な体系で、クリンゴン語を学ぶサイトまでできた。
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文=服部 桂

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