廣瀬:良い意味で前澤とは距離をもって接していました。前澤は取締役副社長兼CFOの柳澤孝旨や僕のことを信頼してくれていて、管理本部には基本的に口を出してこない。だから僕たちは自由に好き勝手できる。それが前澤との距離感でしたね。
横田:それでいうと、山田は自分たちの業務を幅広く見ていて、細かく指摘をもらうこともありますね。今までコーポレート部門で働いた(管掌した)経験はあまりないので、新しい目線での指摘をもらうことも多いですし、その一方で相談も受けることもあります。
廣瀬:もう前澤は新しい挑戦に向かって動いていますが、一緒に働いていたときのことを振り返ってみて、やっぱりセンスがある人だと思いました。質問内容や切り込み方、数値の見方などはすごくセンスがあり、一緒に働くことでとても勉強になりました。
「韮型人材」の育成には5〜10年くらいの時間が必要
廣瀬:逆に今度は僕から横田さんに質問していいですか? 最近メルカリさんは横田さんが中心となって「韮(ニラ)型人材」をコーポレート部門のキーワードのひとつに掲げて、「人事ローテーション(部門内異動)」をスタートさせていますよね。この韮型人材について僕も同じように重要性を感じているのですが、どうやって育成すべきなのでしょうか?
横田:もしかしたら韮型人材の意味を知らない人もいそうなので、少し説明しますね。韮型人材とは、縦にも横にも強いスキルを持つ人材のことです。専門分野でのプロフェッショナルを深めるだけでなく、他分野での仕事を経験することが組織力の強化につながっていくと考え、この言葉を提唱し始めました。
今年から「人事ローテーション(部門内異動)」をスタートさせていますが、改めて韮型人材の育成には時間がかかるなと思いました。「韮」という漢字には真ん中に2本の縦軸があるのですが、あれが出来上がるのに5年〜10年くらいの時間がかかってしまう。「韮型人材いいね」と言っていますが、時間がかかる取り組みだなと思っています。そういう意味ではZOZOさんみたいに勤続年数の長い社員がいて、彼らがじっくり時間をかけて韮化していくのが、本当の韮化なんだろうなと思います。
メルカリ、メルペイは新しい会社で、中途採用が多く、勤続年数も1〜2年ほどの社員も多いです。まだまだ、これからの会社なのかなと思います。そう意味では修羅場経験と、グループ会社のコーポレートをひとりで見る経験をすると一気に視野が広がっていく気がしています。
廣瀬:ZOZOはメルカリさんのように横の異動があまりなくて……。私は一度、ZOZOTOWNに出店いただいているブランドさんの営業を担当する部署の本部長に就任しましたが、そういったケースはめずらしいです。部署の長としては、優秀なスタッフに異動で抜けられると困るな、と部下を抱えてしまうところがあるからです。そこを解放していかなければ、韮化に必要な2本の軸はできないのかなと思います。そこが弊社としては、いま課題だと思っているポイントです。
横田:自分が経理の仕事を覚えたのがグループ会社の経営支援、特命案件業務に従事したときです。それは業務外でやらせてもらっていて、仕事が終わった後に経理作業を自発的にひとりでやっていましたね。鞍替えの準備や内部統制報告制度(J-SOX)など横に、縦に広げていかないとできない業務ってあるじゃないですか。M&Aもそうだと思います。
そういう業務を繰り返していくと、視野が広がっていくのかな、と。多分、廣瀬さんもそういう経験されてるんじゃないですかね?
廣瀬:そうですね。上場審査は全社を隈なく見るプロジェクトとして、やる意味はありました。一部指定のとき、僕が責任者を担当しました。当時、各部署から情報を吸い上げ、審査資料を300ページほど作成していく。そうすると会社の全体感が見えました。
横田:「2年分の将来の貸借対照表(B/S)をつくって」と言われて、当時は「無理だよ」と思うこともありましたけど、そういうのも実際にやってみたり(笑)。M&Aにおいては、税務申告書見ないとダメだとか、実際に教わりながらやってみる。それを繰り返していくと、韮化していくのかなと個人的には思っています。
廣瀬:例えば、銀行員のときに税務申告を見て、ちゃんと減価償却やっているのか、利益操作してなさそうかを見るトレーニングはしていました。そこもひとつ、僕の中では経験になったことだと思います。いろんな業種を見れたことが、銀行と証券会社の経験としては非常に良かったです。
横田:銀行員がすごいなと思うのは、数字を見続けていること。僕もサイバーエージェント時代の上司から「数字は食べてください」と言われたんですけど、毎日数字を食べ続けると数字を見た瞬間、違和感に気づくスピードが異常に早くなるんですよ。すぐ違和感に気づいて、「これ間違ってます」と言えるようになる。そういうトレーニングを10年くらい続けると、見えてくるものもあるんじゃないかなと思います。そういう筋トレはどんな職種でも、やり続けないといけない。