そのアスタミューゼが今回は、イノベーティブな企業を見出そうとした。
イノベーティブな企業にも、パターンがある。
「まず、イノベーティブな企業という漠然とした像を、3つのパターンに因数分解しました」
永井がこう説明するように、「イノベーション効率」「オープンイノベーション」「イノベーター集積度」の3部門、言い換えれば、カネ・コネ・ヒトに関する3部門を設けている。
イノベーション効率ランキングは、カネに注目して算出したものだ。
「過去に何度か、社会を驚かせるような商品を出したことがあるからといって、その企業がこれからもイノベーティブだとは考えずに、今後、効率よくイノベーションを起こすために研究や開発に、継続的に資産を投じているかを基準にしました」
過去ではなく将来性を重視しているので、例えば“何十年か前はイノベーティブだったことがある企業”は排除されている。
続いて、オープンイノベーションランキング部門はコネ、つまりコネクションに注目したものだ。イノベーションのための投資が、社内だけでなく社外にどれだけ広がっているかに着目している。
なぜ、オープンであることがイノベーティブな企業の一条件であり得るのか。永井の答えは明快だ。「もう、ひとつの企業だけで起こせるイノベーションはすべて起きてしまっていて、これからは一企業からはイノベーションは生まれないでしょう。そうした前提に立つと、さまざまな分野の企業や大学に対してよりオープンであることがイノベーティブな企業のひとつのパターンと言えます」
最後は、ヒトに焦点を当てたイノベーター集積度ランキングだ。
「イノベーションは誰が起こすのかというと、企業の中にいる人です。イノベーティブな人のいない企業がイノベーティブであるとは考えにくい。ですから、バランスシートに載らない財産の典型でもある企業の中の人の活動に関するデータを集めて計算をしました」
算出に用いたのは、財務情報、業務提携や特許出願などに関する公開されているデータのみ。したがって、同社に依頼しなくても、同様のデータを取得することは可能ではある。しかし、対象となる企業数とデータが膨大なため現実的ではない。また、一企業が自社のためにデータを活用しようとすると、そこには陥りがちな罠があるという。
「調査期間や予算、どのデータを採用し、どれを無視するのか、どの分析方法を使うのかなどによって、分析結果は変わります。求めている結果に近づくように、分析に使うデータや分析方法を変えることは可能ですし、そうしがちです。すると『やっぱり思った通りだね』と、脳は心地よいのですが、それではデータを参照した意味がありませんよね」
だからこそ、アスタミューゼのような第三者の分析が注目されているのだ。
認知バイアスを疑え
もちろん、各種データを公表していない企業はランキングの対象外だ。また、今回の3パターンに当てはまらない、第4、第5のパターンの企業も世の中には存在するだろう。そうした前提に立ってもなお、今回のランキングに違和感があるならば、「この企業はもっとイノベーティブなはずだ」「この企業がこんなにイノベーティブであるはずがない」という認知バイアスを疑うべきだ。