どの企業が最もイノベーティブなのかを知ろうとする試みは、どの企業が最も元気なのかを知ろうとするそれとよく似ている。最も時価総額が高い企業を知りたければ株価を、最も利益の大きな会社を知りたければ決算書を見比べればいいが、最もイノベーティブ、最も元気な企業はそう簡単には決められない。明確な指標がないからだ。
それでも元気な企業を見つけようとした場合、元気な企業にいくつかのパターンを見出すというアプローチがある。
出店やM&Aを矢継ぎ早に行う。潮流の変化に即した新規事業をいち早く立ち上げる。採用を増やしている。利益や時価総額が急伸している。経営者が意気軒昂で情報発信に熱心。従業員のモチベーションが高い。ほかにもパターンはあるかもしれない。
利益や時価総額は、先ほども書いたようにすぐにわかる。それらに比べると、出店やM&Aの数、新規事業数などは、定量的なデータではあるものの、比較しやすい形で整理され公表されているわけではないので、可視化するには手間や時間がかかる。より多くの同業他社と比較しようとすると、手間も時間もそれだけ上乗せされる。
経営者の思いや情報発信の頻度、従業員のモチベーションとなると、何をもって熱心とすべきか高いと言うべきか、指標づくりから始めなくてはならない。そこには、出店数の把握や比較とは比べものにならない手間と時間がかかる。
こうした可視化が難しいデータ、アスタミューゼの永井歩代表取締役社長が言う「バランスシートには載らないタイプの財産」を多く持つパターンの元気な企業は、元気な企業として客観的な評価をされにくい。経営者が無計画に出店やM&Aを重ねている空元気な企業よりも、元気のない企業として誤認される可能性が高い。
ただ、企業の価値を推し量るうえでは、元気と空元気の誤認はそれほど致命的ではない。元気であるかどうかは、その企業を評価するうえで重要なファクターではないからだ。
では、イノベーティブではない企業をイノベーティブな企業だと誤認したら──。この誤りは、業務提携や買収、投資といった経営判断の誤りに直結する。
企業を因数分解する
アスタミューゼは、誤認による誤判断を防ぐため、見えにくいデータの可視化の必要性を訴え、実行してきた企業だ。世界80カ国での新事業や新技術、新製品や投資情報など、入手可能なデータを分析し、企業の正しい判断とそれによる早期な社会問題の解決を促進するために有望な市場や技術分野を予見している。