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2020.01.06

「生き続けるためにはノーチョイス」 オリンパス、覚悟のトランスフォーム

竹内康雄 オリンパス 取締役 代表執行役 社長兼CEO

Forbes JAPANは、イノベーティブな企業こそ未来をつくる“GREAT COMPANY”だと考え、「日本で最もイノベーティブな企業」をまったく新しい手法で選出した。イノベーター集積度ランキングで5位になったのは、オリンパス。人事制度の改革に、物言う株主からの取締役受け入れ、低侵襲治療市場への挑戦──。消化器内視鏡という圧倒的武器を持ちながら、同社社長が変革を唱える理由とは。


いま、医療業界で低侵襲治療が注目を浴びている。低侵襲とは、文字通り患者の体への負担が小さい治療のこと。例えば、内視鏡下外科手術では、メスで体を切り開くのではなく、体に数カ所の穴をあけて手術する。

侵襲性が低ければ、入院期間が短くなり、医療費の抑制にもつながる。低侵襲治療は以前からあったが、QOL向上や医療費増大が社会課題になる近年、さらにニーズが高まってきた。
 
この分野の治療機器では後発ながら、積極的な投資を続けているのがオリンパスだ。オリンパスといえば、消化器内視鏡で世界70%のシェアを誇る先駆者。しかし、病気を見つける内視鏡と見つけた病変を治療する器具では、求められる技術が違う。決して容易ではない挑戦だ。
 
消化器内視鏡という圧倒的な“金のなる木”を持つオリンパスが、なぜ未来への投資を続けるのか。背景にあるのは危機感だ。同社は売り上げこそ伸び続けているものの、前中計で掲げていたROEや営業利益率などの目標は未達が続いた。竹内康雄社長は、課題を次のように明かした。

「組織の効率が悪く、スピード感に乏しかった。手を打ってきたつもりですが、計画通りのアウトプットを出せなかったのは、有効な施策を打ち切れなかったということ」
 
この反省に立ち、オリンパスは19年1月、真のグローバル・メドテックカンパニーになることを目指した企業変革プラン「Transform Olympus」を発表した。

経営体制を変えて執行責任者の権限を各事業部門の責任者に委譲したり、職能制だった人事制度にメスを入れて、グローバルで職務制に統一したりするなどの施策を明らかにした。6月にはアクティビスト(物言う株主)であるバリューアクト・キャピタルの推薦者2人を取締役として受け入れたが、それもトランスフォームの一環だ。

未達の前中計から目標を引き上げ

続いて11月、オリンパスは新経営戦略を発表。冒頭に紹介した未来に向けた取り組みは、この戦略で打ち出されている。
 
実は前中計は16年~21年3月期までの5カ年計画。2年を残したいまの時期に新経営戦略を発表するのは異例だ。また、1月に「Transform Olympus」を発表したばかりでもある。新経営戦略は変革プランと性質が異なるとはいえ、いかにも矢継ぎ早な印象を受ける。なぜ前倒ししてまで発表したのか。竹内は、「覚悟のレベルを示したかった」と強調する。

「前中計はなぜ未達だったのか。外的要因はいろいろありますが、我々が本当に腹落ちしてコミットメントできていなかったことも大きい。今回は絶対に達成するんだという姿勢を社内で徹底する。新経営戦略でそれを示したかった」
 
覚悟が具体的に表れているのは、23年3月期の営業利益率20%以上という目標だろう。現中計の目標は15%だった。未達だった目標をさらに引き上げたのは、かなりアグレッシブだ。
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文=村上 敬 写真=宇佐美 雅浩

この記事は 「Forbes JAPAN 2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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