ビジネス

2019.10.29

中田英寿とフィリップ・リムが語る「クリエイションの哲学」

中田英寿(左)と、フィリップ・リム(右)


──フィリップさんは、日本のクラフトマンシップをどう評価していますか?

フィリップ:本当に素晴らしいよ。よく日本からものを買っているから、毎回FedExの請求が怖いくらい。特にガラス細工は最高だね。

僕は自宅に人を招待することが多いんだけど、料理や食器、全てに敬意を持っている。日本的な美徳が自分の中に根付いているのを感じる。まるで自分が日本人なんじゃないかって思うくらい。


フィリップ・リム

中田:彼のつくる料理は本当に美味しいんだよ。料理本も出しているしね。彼の自宅に招いてもらうことは、僕にとってのラグジュアリーな体験のひとつ。

──中田さんが次にフィリップさんをもてなすとしたら、日本の何を紹介しますか?

中田:僕は頻繁にクラフトマンや農家、日本酒の酒蔵などに会っているから、フィリップにももっと日本の多様さを知ってもらいたい。そこで彼が何に刺激を受けるか探りたいね。フィリップがつくる美しいものと、素晴らしいセンスを知っているから、彼の視点をそのまま写真にしてみたいな。

フィリップ:僕がいま写真に撮りたいのは、職人の手。モノづくりをするときの手の美しさは、クラフトマンのパワー、繊細さ、経験を語っている。説明的なものではなく、目で見て感じるようなものだね。

一般的に、デザイナーは問題の解決策を見つけることが仕事で、アートは社会を投影し問題を発見することだけど、僕の手がけるデザインはそれらにまたがる、社会問題の発見と解決のプロセスそのものなんだ。

中田:今回はじまるプロジェクトにも、そんな思想が込められているよね。

フィリップ:ザ・ウールマーク・カンパニーと協業した今回のカプセルコレクションは、サステナビリティを考える上でとても重要だと思う。ファッションにおける古き良きセンスと、サステナブルなビジネスのバランスを考えたものなんだ。

100%のサステナブルはあり得ない、バランスなんだ

──「サステナブル」について、改めてフィリップさんの考えを教えてください。

フィリップ:サステナブルを考えることは、どう生きるかと一緒。バランスだね。ファッションというのは、良くも悪くも社会に対して大きなインパクトがある。人間は服を着て眠るし、洋服は人とは切っても切り離せない重要な役割を担っている。現代的に、人間本来の「自然な状態」が何かを考え、ビジネス的なバランスをとりながらそこに回帰することに意味があると思う。

──アディダスやH&Mなど、すでにさまざまなブランドがサステナブルな取り組みを始めているなか、なぜいま始めたのでしょうか?

フィリップ:まず、自分自身のタイミングに合っていたから。最近料理を始めたんだけど、料理をするとは自然や季節との対話だと思う。単純に味の良し悪しだけではなく、文化の地域性を考えることでもあるし、健康面への洞察を通して自分を見つめ直すことにもなる。そんな中で、いまのファッションは「何か違うんじゃないか」と気づいたんだ。

例えばオーガニックな食材の方が高価であるという事実は、人間のエゴイズムを象徴しているのではないかって。このいびつな現状に、ファッションデザイナーとして何ができるかを考えるようになったのがきっかけだね。

──世界的なソーシャルイシューに、ブランディングとのバランスを取りながら取り組むのは難しかったと思います。どう乗り越えましたか?

フィリップ:対立や衝突は常にあるけど、それを恐れずインパクトを生み出すことを意識した。プロセスに痛みを感じることもあるけれど、「100%のサステナブル」はあり得ないと思う。人間がこれまで自然と共に築き上げてきた文明や歴史を否定するわけではなく、「バランスをとる」ことが大切なんだ。何かをつくることは、何かを奪うことでもある。その過程の中でサステナブルな社会にどう貢献できるかを考えているね。

難しいのは、若い世代にどうアプローチするか。だから今回、若い世代が好むデニムやアクティブウェアに取り組んで、彼らのマインドがサステナブルと交わるポイントを作った。今回のプロジェクトが、彼らの価値観を変えることになると信じているよ。
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文=長嶋太陽 写真=小田駿一

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