たとえば、同社の「ワーキングマザー」には、フルタイムの社員もいれば、時短勤務の社員もいる。さらには、雇用形態も、正社員や契約社員などと多様だ。ほかにも、LGBTQの同性パートナーシップに対しても、結婚祝金など、異性パートナーシップと同一の福利厚生が適用される。しかし、これはあくまでも「同性パートナーの場合も、結婚祝金を受け取りたい」というニーズを起点に運用される制度であり、最終的に使うか否かの判断は当事者に委ねられているという。
このように、従業員の多様なニーズに応えられる施策を設計するために大事なことを尋ねると、塚本氏は「ファクトを可能な限り集め、小さく、早く始めて、試すこと」だと話す。
たしかに、同社では2018年からグループ各社のダイバーシティ推進担当者を、ひとつの組織で束ねている。こうしたガバナンス体制により、国内の従業員約2万人以上の顕在ニーズやナレッジをより広く拾ったり、展開しやすい環境を整備しているというのだ。
その代表的な活用例が、ワーキングマザーに保育園の入園サポートをする「保活コンシェルジュ」だ。たとえば、同じ東京都内でも、エリアによって認可保育園の数やルールが異なるために、保活事情は異なる。そこで、各エリアごとにナレッジを集め、従業員ごとにカスタマイズした各論のアドバイス、ひいては復職までの支援を実施しているのだ。
また、集約されたナレッジは、イベント開催を通じて、従業員に積極的に展開されている。その実施回数は年間50回、参加者は1300名以上にも及ぶ。イベントで目の当たりにした参加者の表情の変化や感想を、施策にフィードバック。PDCAサイクルを回しながら、施策を磨きこんでいく手法は、いかにも同社らしい。
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特に好評のテーマは、「小一の壁」。子供が小学校に入学すると生活環境が変わるため、仕事と育児の両立に問題を抱える親は少なくない。精神論で「頑張りましょう」と励まし合うのではなく、先輩ママから集まったナレッジを厳選し、「4月第1週目は通常の登校時間と、学童の開所時間のかい離があるため、業務調整が必要」「お弁当のお買い物は事前にちゃんとしておく」といった各論に至るまでのアドバイスを行っている。
最近では、託児所を設け、夫婦で参加可能なイベントを増やしている。「イベントを機に、家庭で話さないトピックスを相談できた」という声も挙がっているそうだ。
28歳向け研修、休暇制度の改革、VR動画の活用…リクルートが従業員にダイバーシティに当事者意識を促すための工夫とは
企業のダイバーシティ推進における肝は、いかに自分とは異なる立場への理解を促すか、という点だ。たとえば、よく挙がる問題として、当事者はもちろん制度を利用したいが、上司からの理解が得づらいといった話が挙がる。そこで同社では、従業員がダイバーシティを自分事として捉え、企業価値観として浸透させるために、独自の施策を用意している。