米中が対立するなか、日本は自由貿易の旗手になれ


アメリカが保護主義、自国第一主義に傾斜していくなかで、自由貿易体制を維持するための日本とEUの役割は重要だ。いくつか具体的にできることがある。まず日本は、TPPの高い水準の自由貿易・経済連携をアジア太平洋地域の非加盟国に広める努力をすることが重要だ。加盟国を増やすことで、規模の経済が働き、自由貿易の利益がより大きくなる。とくに、アメリカが抜けたあとのCPTPPでは、加盟国の経済規模の合計が、アメリカやEUに比べて十分ではないので、加盟国拡大は重要なステップとなる。
 
日本とEUが協調してできることもある。第一に、アメリカによって弱体化されているWTOのテコ入れだ。WTOの紛争解決プロセスのために必要な上級委員の任命をアメリカが拒否しているため、12月に、裁定に必要な3名が確保できなくなる可能性がある。WTOの紛争解決における重要な役割を継続するためにも、日欧が連携して働きかけるなり、WTOに代わるメカニズムをつくることも検討すべきだ。第二に、現在は日本とEUの自由貿易協定だが、これを、EUとCPTPP全体の自由貿易協定にすると、2つの地域のつながりは大きく前進する。EUは関税同盟であり、CPTPPは基本的に自由貿易地域なので、調和のとれた条約の作成は簡単ではないが、前例がないわけではない。

このように、日欧協調が進み、米中の貿易摩擦が激化すると、中国にとっては、日欧との連携を図るインセンティブが高まるであろう。従来から、中国は広域経済圏構想「一帯一路」の一環で、欧州への投資に積極的だ。アメリカのTPP離脱を受けて、中国がCPTPPへの参加に興味を示してもおかしくない。本来、アメリカは、質の高い自由貿易協定を構築して、中国に対抗するTPPを目指していたはずだが、中国がTPPに参加して、アメリカを排除する、というシナリオが現実味を増している。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学特別教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002年〜14年東京大学教授。近著に『公共政策入門─ミクロ経済学的アプローチ』(日本評論社)。

文=伊藤隆敏

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