こうしたことが、米企業が中国に進出し、どうしてもそこにとどまりたい最大の理由だ。貿易戦争を巡る状況がさらに大幅に悪化しない限り、彼らは調達先を他の国に切り替えようとはしないだろう。
米中ビジネス協議会が先ごろ発表した調査結果によれば、中国は供給先としても出店先としても、その他のどの新興国よりも大きな利益を米企業にもたらしている。関税率の引き上げを理由に拠点を米国に戻すと答えた企業は、わずか3%だった。中国から撤退するという企業は、7%未満だ。
米企業はなぜ、それほど中国にいたいのだろうか。中国の何が、それほど素晴らしいのだろうか?
政治の話は置いておこう。検閲を行い、宗教的少数派を西部に建設した「再教育キャンプ」に収容している一党独裁国家であることも、今は忘れておこう。
正直なところ、こうした問題を重要視している多国籍企業はあるだろうか。共産党指導部と衝突したり、人権侵害に関与しているとみられる団体と取引をしたりしない限り、彼らにとってこれらは、ほとんど問題ではない。人権問題を理由に中国との取引をやめた米企業があっただろうか?
企業から見て、中国がその他の新興国より優れている主な理由は、以下のとおりだ。
・税制
中国の企業所得税(法人税)の税率は25%。インドは35%、ブラジルは34%、メキシコは30%だ。さらに、中国では場合によって、少なくとも5%が軽減される。
・労働力
中国の賃金は、ブラジルやメキシコに比べればまだ低水準だ。また、国際労働組合総連合によると、労働者の権利という点でいえば、中国は世界で最悪の国の一つだ。つまり、企業からすれば、労働力を容易に搾取できるということになる。
労働者があまり保護されていない一方で、中国には縫製工場の労働者から科学者、ハイテクな先端機械のオペレーターまでを含む多様な人材プールがある。
・物流
ブラジルのように、物流の混乱で知られる国もある。同国には、適切に管理・運営されている港は恐らく3カ所しかない。一方、中国の港湾は世界水準だ。ラテンアメリカやインドのどこにも、中国にあるような港はない。